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目の前に広がる真っ白な天井らしきものが若干歪んで見える。
徐々に焦点が定まり、火災報知器や蛍光灯は確認出来るが何故僕が
今この白いベッドの上に横たわっているのかが全く理解出来ない。
半透明のマスク状態のまま少し顔を横に傾けるとドラマで見たことのある
心電図モニターが規則正しい音を発しながら稼働していた。
人の気配を感じ今度はゆっくり顔を反対側に傾けると看護師さんがしゃがみ
込むような姿勢で心配そうに話掛けてきた。
「田町さん、ご気分はどうですか?」
「えぇ、大丈夫です。ところでココはどこですか?」
「病室ですよ」
「病室ってことは僕はいったい……」
「田町さん、事故に巻き込まれてココで治療を受けてたんですよ。でも
良かったわ、意識が回復して」と彼女は細長い機械の液晶画面に表示された
数字をカルテに書き写した。
「あの~ 僕、どれぐらい意識がなかったんですか?」
「えっと…… 今日でちょうど10日目ね」
「えっ、ということは10日間も僕はこの病室にいたってことですか?」
「そうよ」
〈ガラガラ……〉
「あっ! 先生、田町さん、意識戻られました」
「バイタルは?」
「下が81、上は122です」
「田町さん、どこか痛む所ありますか?」
「い、いえ今は特に」
「そうですか。でも意識が戻って本当に良かった」と安堵の表情を浮かべた
先生はアンプルのような物から透明の液体を注射器で吸い上げるとそれを
再び点滴部分に差し込み液体を注入した。
先生は心電図のモニターを確認した後、看護師さんに幾つかの指示を出すと
再びベッドに近づき僕の容態について話てくれた。
先生によると事故現場から運ばれて来た僕の身体は幸い目立った外傷は
なかったものの頭部を地面に強く打ち付けた痕があり事故直後から既に僕の
意識はなかったらしい。
その後、精密検査を経て緊急手術を無事終えるもなかなか意識が戻らず
この集中治療室で経過観察というのがこの10日間の流れのようだ。
あの事故で僕以外に被害に遭った40代の男性及び加害男性も同病院に
入院中で共に意識は既に回復し経過は良好らしく僕はとりあえず安堵した。
先生曰く事故の規模からして死者が一人も出なかったことはまさに不幸中
の幸いで今回は特に稀なケースらしい。
目立った外傷がない僕は検査で異常がなければおよそ2週間程度で
一次帰宅可能らしいが僕の心は激しく混乱しとても退院の喜びどころでは
なかった。
一体どこからどこまでがリアルなんだ?
ナオミとの思い出全てが僕の妄想だったなんて……。
結局、僕は現状を理解することも受け入れることも出来ず半ば混乱状態の
まま退院当日を迎える事となった。
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