6-5(21)

 僕たちは通い慣れた通りを目的地目指して一目散に歩き始めた。

 さすがに平日とあってたまに見かける観光客以外人の数はまばらだが

それもこれも事前に僕が設定しているのだから当然の光景だ。

 通りに面するショップはアニメ関連やアダルト系など以前と変わらぬ

並びに彼女の表情は徐々に曇り始めた。


「ねぇねぇ、レンちゃん」

「どうしたの?」

「どうしたのじゃないわよ。ココっていつもの通りじゃない」

「そうだよ。もうすぐだからさ」

「もうすぐ? あっ、もしかして新しく出来た体験型アトラクションでも

見つけたの? サバイバルアクション的な」

「まぁ、そんなとこかな」


「あった、あった。ココだよ」と半ば強引に彼女を手を引き入店したのは

老舗のモデルガンショップだった。

 店内の壁には重厚なマシンガンをはじめ世界各国から集められた本物

そっくりのモデルガンで埋め尽くされ、2段に分かれた棚には手榴弾や

スコープなど有事に必要な武器が一通り揃っていた。

 誰もいない店内で僕は一番奥の目立つ壁に掲げられた一丁のマシンガン

を手に取るとそのまま付属のベルトを左肩に掛け等身大の鏡の前に立った。

 するとナオミもいつも間にか僕よりひと回り小さめのマシンガンを手に

取り、後ろからそっと僕に近づき耳元で囁いた。


「これからサバイバルゲームが始まるのね」

「まぁ、そんなとこかな。覚悟はできてるの?」

「そりゃ~ オタクのアンタに負けるワケにはいかないわよ」


 僕が手当たり次第ポケットに手榴弾をはじめ弾丸類を詰め込むのを見た

彼女も背後の棚からロクに確認もせず武器類を鷲掴みし銃を構えた。


「さぁ、レンちゃん、かかってらっしゃい!」

「い、いやそうじゃないんだ」

「えっ、サバイバルゲームじゃないの?」

「まぁね」

「確かにそうよね。コレって所詮観賞用のオモチャだもんね」

「いや、そうとも言えないんだけどね」

「何ワケ分かんないこと言ってんのよ」


 僕はおもむろに胸ポケットからタバコ1本を取り出すと黙ってライター

で火をつけた。


「あれ、レンちゃんタバコ吸うの?」

「実はナオミに出会う前までは吸ってたんだ」

「ふぅ~ん」


「あっ! ナ、ナオミ、伏せて!!」


〈ズババッ!〉〈ズババッ!!〉〈ズババッ!!!〉   

   <ガシャン!><ガシャン!!> 

              〈ズババッ!!〉〈ズババッ!!!!〉

                    <ガシャン!><ガシャン!>

〈キャ――ッ!〉              

       〈ズババッ!〉〈ズババッ!〉〈ズババッバ―ン!!!!!〉

   「何なのよ―ッ!」                     

         「ふ、伏せて―!」              

          〈ゲホッ!〉〈ゲホッ!〉 [バラ]

                          [バラ]

                             [バラ]

 

 ショーウィンドウのガラスが全て粉々になり、扉の枠だけとなった入り口

付近から灰色の煙が立ち込め、外気の風に乗って火薬の臭いがお店全体に

広がった。 

 とっさにお店中央にある縦長の重厚そうなな棚を盾に身を潜めた僕たちは

相手の出方を伺うため少しの間その場で待機した。


「ちょっと、レンちゃん何なのよ!」

「しっ…… 静かに」と僕はタバコを床にこすり付けゆっくり棚の上から

出入り口付近を目視した。

「ふぅ~ 逃げるなら今かな」

「逃げるって誰からよ」

「悪の組織からさ」

「悪の組織? どうしてワタシたちがそんなワケ分かんない組織から

追われてるのよ!」

「まぁ、それは色々とね。ははっ!」

「レンちゃん、もしかして思いつき?」

「えっ、い、いやまぁ」

「そうでしょ。まだ何も考えてないんでしょ」

「さっ、そんなことよりとにかく急ごう!」


 僕は納得できない様子のナオミを無理やり立たせ、奥の勝手口に

向かおうとしたその瞬間再び銃声が店内に響き渡った。


〈ズババッ!〉〈ズババッ!〉〈ズババッバ―ン!!〉 


『うわぁ――っ!!』


 僕も振り向きざま奴らに負けないようマシンガンで反撃した。


〈ズババッ!〉〈ズババッ!〉〈ズババッバ―ン!!〉 


「レンちゃん、それ本物なの!? ってことはコレも……」

「そうだよ!」「ナオミも撃って!」 


〈ズババッ!〉〈ズババッ!〉〈ズババッバ―ン!!〉 

   「キャ――ッ!」

      〈ズババッ!〉〈ズババッ!〉〈ズババッバ―ン!!〉 

                      「あっち行って――っ!」

 

 灰色の煙が充満し視界がほぼ無くなる中、僕はナオミの手を引き勝手口

から外へ飛び出した。


〈はぁ〉〈はぁ〉〈はぁ〉〈はぁ〉……


「ち、ちょっとレンちゃん、この方向で合ってるの?」

「あぁ、たぶんね」

「レンちゃんの描写が下手だから道や周りの風景が歪んでワタシ酔いそう

なんだけど」

「もうちょっと、もうチョットの辛抱だから我慢して!」


〈はぁ〉〈はぁ〉〈はぁ〉……


             「あっ、あそこだ!」


 僕は具合が悪くなった彼女を抱え込むようにあらかじめ設定しておいた 

古い雑貨店の用具置き場へ向かい、しばらくの間そこで身を隠すことにした。

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