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 なんとも意外な形でナオミと再開した僕は早速劇場へと足を運んだ。

 再び執筆活動を始めるにあたり物語がどのようなエンディングを

迎えたのか改めて知る必要がある為だがもちろんそれだけではない。

 彼女の活発で明朗な性格のおかげで僕の心に長く燻っていた罪悪感や

良心の呵責的なものが軽く浮き上がり薄まるのを実感したからだと思う。

 そんな僕の足取りは以前とは比べるもなく軽快だった。

 劇場は昔ながらの商店街の一角にひっそりと佇む色ぼけたレンガ創りが

特徴的で、そこだけ見るとまるで外国にいるようだ。

 間口は狭いが奥行がある特異な形状の劇場に僕は一歩足を踏み入れた。

 すると意外にも宣伝用ポスターが壁を覆いつくすように貼られている

様子に一瞬誇らしく思うも、狭いロビーに誰一人見当たらない燦々たる現状

に僕は改めて納得させられる事に。

 窓口で代金を支払う際思い切って封切りからの客入り状況を尋ねてみると

僕の予想どうり不評のようでこの週末に打ち切りが決定したようだ。


〈キィ――ッ!〉


 メンテ不足の扉を開けると薄明かりの中、狭い客席に10人ほど確認

出来ただろうか。

 僕はなんだか申し訳ない気持ちのまま幅の狭い階段を足早に駆け上がり

照明が全く当たることのない最後列の一番左端の席に腰掛けた。

 小さめのスクリーンには上映10分前だというのに話題映画の予告編

すら流れていなかった。

 ミニシアターでは大手配給元との契約が少ない為よくあることだが

少ない観客とも相まってなお一層寂しさが増す。

 スクリーンには黄色味がかったスモールライトが当てられそのまま

待つこと約10分、開演を知らすベルのようなものが鳴り響くと画面が

一瞬白く輝き本編がスタートした。

 タイトルから始まり主演男優、ヒロインに続き監督のクレジットが

浮かび上がるも原作者は完全にスルーされていた。

 本編開始から15分、僕は無意識に何度も首を傾げていた。

 それはこの作品が醸し出す色合いや温度的なモノに強烈な違和感を

感じていたからだ。 

 監督が意図したものなのか彼が原作から感じ取ったものなのかは

分からないが作品テイストがすこぶる爽やかで悪く言えば軽い。

 もちろん監督、スタッフなど構成面だけでなく演者もこのテイストに

大きく影響していることはまず間違いないことなのだが……。

 監督はあえてこの演者を選んだのかあるいは大人の事情なのか。

 それにしても僕は改めて小説の恐ろしさを痛感した。

 読者は文字を通した上でその状況を理解し更に映像化、しかもそれに

色彩やキャラ、声質までの設定を同時に行って読み進むのだから各読者

により多少差異が出るのは当然だとしてもここまで違うとは。

 とは言え原作者である僕も昨夜の彼女をナオミと気付けなかった

のだからあまり偉そうな事は言えないが。

 ついそんな理屈っぽい分析をしてしまうほどこの作品は僕にとって

集中力を欠く単なる映像物となる中、突如として昨夜彼女が僕を驚かせた

台詞が耳に飛び込んで来た。


『レンちゃんが作るココアって100パ―薄いよね』 


 ナオミが検査入院の初日にカップを手に発した台詞だ。

 僕は映画そっちのけで再び昨夜の彼女の言動を思い返していた。


(昨夜の彼女は本当に僕が創り上げたナオミなんだろうか? いや、単に

からかわれてるだけなのかも。実際この映画を観ればかなりの完成度で

ナオミ自身になりきることは可能だもんな。もしかして僕に一目惚れ?

それで彼女なりのキッカケとしてこの映画を利用したとか…… ないな。

絶対ありえない。だって僕は今、目の前で演じてる爽やかイケメン俳優

とは真逆だもの)


 その間映画は後半へ、そしてナオミの闘病生活へと次第に重苦しい

シーンへと進むが僕にとって完全に別物となった作品に感情移入出来る

はずもなく僕は一つの結論にたどり着き思わず失笑してしまった。

 それは彼女はナオミではないということだ。

 彼女の子供騙しのような説明に納得させられ、あげくこうして劇場に

足を運んでしまっている自身の愚かさを改めて痛感するも次第に彼女に

対する怒りのようなものがこみ上げて来た。

 怒りは映画がエンディングに向かうもいっこうに収まらず、ナオミが

奇跡的に一命をとりとめる感動的シーンにもかかわらず僕は足早に劇場

を出てしまった。

 どういう目的であれナオミを踏み台にし僕に近づこうとした彼女の神経

が許せなかった。

 これで僕は続編執筆を免れたが、ここはやはり彼女に事の真意を問い正す

必要がありそうだ。 

 いずれ彼女は何らかの目的で必ず僕の前に姿を現すはずだから。

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