第2話:笑わない子
華菜子は1995年に小さな田舎町のごく普通の家庭に生まれた。父は凄腕営業マン、母は凄腕オペレーターと呼ばれるほど社内での評価は高かった。当時、まだ、25歳と27歳と若かったが、結婚して5年経っても子宝に恵まれることはなかった。夫婦にとっては待ちに待った瞬間だった。そして、無事に生まれてきた子供は華々しく何花のように綺麗な子供に育って欲しいと願って“華菜子”と付けたのだ。
しかし、彼女は生まれたときから両親を心配させるようなことが続発していた。1つは“激しい人見知り”だ。起きているときに両親以外の大人の人に触られそうになると生まれたばかりの時は泣き、歩けるようになるとすぐに父親や母親の後ろに隠れるような子供だった。そして、親戚の子供でも短時間であれば遊んでいられたが、長時間になると嫌がるような子だった。彼女が外に出かけたときも他の子とは違う場所で遊ぶようになっていた。
2つ目は“言葉の話し出す早さ”だ。彼女は人見知りだが、言葉を覚えたり、動きを覚えたりすることは早いのだ。そのため、通っていた保育園では2歳クラスで1番早く言葉をたくさん覚えていた。そういう面では彼女が特段おかしいことはないが、どうしても友達と遊ぶことや話すことが難しかったこともあり友達と呼べる子はいなかった。唯一友達のような子はいるが、どうしても短時間遊ぶ程度で友達という認識はない。そして、2年後に妹である優美子が生まれ、少しは人見知りが薄れるかと思ったが、妹が生まれても彼女の人見知りが直ることはなかった。そして、彼女が保育園を卒園し、幼稚園に入園したときに事態は一変してしまった。それは、姉である叶那子が突然言葉を話せなくなってしまったのだ。もちろん彼女も言葉が出なくなってしまったことでかなり困惑していて、大好きなパパとママに思っていることを話せない、話せないことを幼稚園でいろんな子からいじめを受けるようになった。
そして、両親の気がつかないうちに彼女は幼稚園に行かなくなり、仮にバスに乗れたとしても幼稚園から脱走することもあった。両親がおかしいと思ったのはその事実が発覚してから2ヶ月後だった。ある日、叶那子が幼稚園に行こうと準備をしていたときにいきなり顔面が蒼白していき、倒れてしまったのだ。急いで幼稚園に連絡し、事情を説明した。すると、幼稚園の担任の先生も何も知らなかった。すると、彼女が園の中で好きな先生にだけゆっくり言葉を紡ぎながら打ち明けていたことがあった。それは、「幼稚園に来ていて良いのかな?」という彼女の心の内にある不安が体現されているのではないかも取れる内容だった。当時、人見知りだった彼女が初めて両親以外の大人に心を開いたのだった。そして、両親は人見知りが直り、彼女が少し進歩したと思った。ところが、両親の考えたことが裏目に出てしまった。それは、彼女がいじめられているということ以外に別の問題が発生し、心に大きく深い傷を負ってしまったのだ。
もちろん、父はそんなことを娘から聞いたことはなかった。心配になった両親は子供達を連れて、大きな総合病院にある小児心療内科を受診した。すると、姉のカウンセリングをしている時に担当医の先生が両親を呼び出した。そこで告げられたのは姉の寡黙症のような症状だというのだ。つまり、彼女が幼少期から笑うことも少なく、人とも話せなくなったのは彼女が人見知りの可能性もあるが、完全に人見知りだけが原因ではないということだ。
そして、妹もカウンセリングを受けたが、精神発達上の支障があるという所見は見られなかったため、一安心はしていた。
なぜ、姉だけこうなってしまったのか?と両親も考えたが、思い当たる節がなかった。そして、姉だけは定期的に通院することになった。
その後、姉は幼稚園に通いながらなんとか卒園まで過ごせた。しかし、小学校にどのように通わせるかという問題が起きてしまった。というのは、学区内の幼稚園や保育園を卒業した子供達が1つの小学校に集まるため、いじめがエスカレートしないか?彼女に友達が出来るのか?など今の環境よりも見える世界が広くなっていくため、両親が現時点での娘の精神状態で公立学校に入学して大丈夫なのか不安だった。もちろん、通っている病院で先生の所見を参考にどうするかを決めることになった。
彼女が笑う顔を見ることが今までなかった分、小学校という新しい環境に順応して楽しい学校生活が送れるのだろうか?
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