海と龍の星アルマナイマの文化や自然を、星の外から入ってきた側、言語学者ドクター・アムの目線で描いた「博物誌」シリーズ。
今回のお話の主軸は<龍挑みの儀>。
海洋放浪民セムタム族が、<ファル>と呼ばれる同じ知性体ながら圧倒的強さを持つ巨大生物に真っ向から挑む、その一連の流れを取り巻く様々な思惑。
なぜ、一見なんのメリットもないのに龍の側が定められたルールを守り挑みを受けるのか、ドクター・アムはその疑問に答えのひとつを見出し、そして自身が研究する言語について想いを馳せ、またひとつの途方もなく大きな疑問に辿り着く。
他の「博物誌」シリーズとは異なり中々気楽に読めるお話ではありませんが、最後の章に描かれるいのちを「いただく」という行為と、それを誰かと共にする、という情景が、ほのかに暖かい読後感をもたらしてくれました。
そしていつか「ひとりと一匹」の物語が紡がれる日が訪れそうな、そんな想いがします。
龍と共にある民族・セムタム。セムタムの成人儀礼を通過した女性は、言語フィールドワーカーであり、常に彼らセムタムの人々のことをメモしていた。そんな彼女は、一人のエキゾチックな美少女・パチャラと行動を共にすることに。パチャラは見た目は少女だが、成人の儀を済ませて「女性」の位置づけだ。そんなパチャラは、今回、龍に挑むという儀礼を行うことになっていた。
しかし、その前日に不吉な嵐に見舞われ、不穏な空気に満たされる。儀礼の日、パチャラが挑むはずの龍は、死体となってセムタムの船団の前に現れる。その龍を殺したのは、ピューマに似ていて、かつ翼をもつ大きな龍だった。その凶暴な龍(ネコ)は、セムタムの船団を皆殺しにしようと企む。
しかしそんな中、一人だけ果敢に(ネコ)に挑む者があった。パチャラだ。
果たして、パチャラの儀礼はどうなるのか?
そこには誰も予想できない展開が待っている!
民族学的なセムタムの生態が好きで、このシリーズは読めば読むほど興味深いです。語の成り立ちや、彼ら独特の文字や入墨。神話や儀礼など、部外者の視点で描かれているので、とても分かりやすく、面白いです。
是非、ご一読ください。