おまけⅡ第12話 根岸光平 「形成外科」
形成外科の一階。救急用の処置室だった。
処置室の外にあるベンチ。タクとそこで二時間ぐらい待っている。
中から看護師が出てきた。
「あの、先輩は・・・・・・」
「センパイ? ああ、学生さんね。3号の診察室で寝てるわよ」
いつの間にか中で移動していたらしい。3号の診察室をノックして開けてみる。室内にはベッドがあり、そこにロン毛が寝ていた。
診察室3号、とは書かれていたが、今は使われてないようだ。ベッドが2つあるだけの部屋だった。
ベッドに近づいてみる。ロン毛は天井をぼうっと見ていた。
「大丈夫か?」
俺の声にロン毛がこっちを見た。
「すいません! 俺・・・・・・」
タクがあやまり、言葉に詰まった。
「ありがとう」
「はっ?」
「救急車、呼んでくれて」
「ああ」
ロン毛の鼻にはガーゼが貼られていた。
「たいしたこと、ないってさ」
ぼそっとロン毛が言った。
「ちょっとヒビは入ってるらしいけど、もうちょっとしたら帰っていいって」
そうか。それは良かった。
「さんざんな新学期の始まりだなぁ」
「それ、そっちが言う言葉ちゃうで」
思わず言って、ちょっとしまったと思った。ベッドで寝てる人間に言う言葉ではない。
「言えてる・・・・・・」
意外にロン毛は同意した。
「芹沢さん」
看護師が来た。
「ご家族に連絡が取れなくて」
「ああ、今日は両親とも大阪に行ってるんで」
「そうなのね。もういつでも帰っていいですよ」
「ありがとうございます」
ロン毛はベッドから起き上がり、下に置いていたカゴから上着を取った。
「いいよ、君ら、もう学校帰って」
俺はタクとロン毛のうしろを歩いていた。病院から出て町中をトボトボ歩く。
「芹沢さん、どうするんですか?」
タクが聞いた。
「俺は家に帰るよ」
こっちは学校に帰るか。しかし、去りがたかった。軽傷だったとはいえ、ずいぶん血が流れた。それに、なんか芹沢、めっちゃ落ち込んでる。
トボトボ歩いていると、昨日いた空き地の前を通りがかった。
「のど、乾いたな」
空き地の前に小さな自販機があった。芹沢が近づき、ポケットに手を入れる。
「あっ、俺、払います」
タクが駆け寄った。自分のせいだと気にしとる。まあ、殴った相手が、あれだけ血を出せばわからんでもない。
「学校、サボらせたな。俺が払うよ。コーヒーでいいか?」
俺もタクもうなずいた。
「あっ、クソ。ここで買ったら、ここで飲むのか」
俺らに渡しながら芹沢は言った。
ここ、とは昨日の空き地だ。
「あー、ちがうとこ行きましょか?」
「いいよ、あのへんで飲もうぜ」
ブルーシートで覆われた木材の上に腰掛けた。もらった缶コーヒーを開け、一口飲む。微糖だ。カフェオレが良かった。
「お前ら昨日、めっちゃいたよな」
人数のことか。
「28人おったで」
「28、すげえな」
すげえ、それは俺も思う。
「俺は朝、無理やり坂田に誘われてな。んで、ケガしたらこれよ。一人」
落ち込んでたのは、仲間が逃げたからか。横に座っているタクを見た。タクは逃げなかったな。
「あれ?・・・・・・あそこ走ってるの、ノロじゃね?」
芹沢の言葉に、空き地前の道路を見た。ほんとだ、ノロさんが走ってる。
「おい、ノロ!」
ノロさんが俺らに気づいた。
「ああ! コウくん、タクくん!」
走ってくる。近くに来てわかったけど、ノロさん汗びっしょりだ。
「良かった!」
そう言って、ノロさんはへたりこんだ。
「どうしたんや! ノロさん」
「あー・・・・・・コウ?」
「なんや、タク!」
「大変なことになってるかも」
「はぁ?」
ふり返ると、タクがスマホをいじってた。
「病院だったんで、電源切ってたんだ。今、クラスのグループトーク見てるんんだけど・・・・・・」
タクが言葉に詰まった。
「だけど、なんや?」
「クラスのみんなが、街中を捜索してる」
は、はいー?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます