おまけⅡ第11話 根岸光平 「待ち伏せ」

「緑が丘霊園前」というバス停の付近でタクを待つ。


 昨日、一緒に学校行こうと誘われたからだ。


 俺はバスを使わないので遠慮したのだが、自分も同じだと言うので一緒に登校することにした。


 バスを使わないのは、単純に節約だ。どこに転校しても歩いて登校していた。それが良かったのか、けっこう俺は足が速い。


「わりぃ、コウ、お待たせ」


 タクが来た。


「ええよ。待ってへん」


 ふたりで歩き出したところ、女子の声が聞こえた。


「あれ、タクくん?」


 その声はバス停に並んだ人の列からだった。


「おう、玉井、おはよう」


 玉井というのか。昨日の空き地にも来ていた。ちょっと浅黒い肌に肩より短い髪、おそらく運動部。


「あれ、今日はバスじゃないの?」

「ああ、最近、歩きなんだ」

「うっそ! タクくんち、めっちゃ遠いでしょ!」

「まあ。じゃあ学校で!」


 玉井と別れて歩き出す。これは・・・・・・


「タク」

「うん?」

「わいに合わせた?」

「いやいや、ほら、水泳部って夏以外は体がなまんのよ」


 そういうもんやろか。


「さっきのやつ、玉井鈴香、ソフトボール部な」


 ああ、やっぱ運動部か。


「コウ、部活は?」

「なーんもやってへん」


 部活は金も時間もかかる。こっちで早くバイトも見つけないといけない。


「なにかしないの?」

「特には」

「そうかぁ。部活やると上級生とも仲良くなるしさ。いいと思うんだけど」


 俺は足を止めた。


「タク、ひょっとして、昨日のこと、心配しとる?」

「ああ、うん、まあ」


 そういうことか。昨日の上級生が仕返しにくるかもしれない。そう思って俺の登校に付き合ってくれたのか。


「水泳部の先輩に聞いてみたら、3Fはあんま関わるなって」

「へえ、同学年からも問題クラスやったわけか」

「そう」


 面倒なとこに首つっこんだか。まあでも、あの坂田はむかついたしな。


「気をつけるわ。あんがと」

「うん」

「まあ、さすがに、昨日の今日はないわ」


 俺の自信満々な言葉は、15分後にやぶられた。


 駅の西から東へ通りぬける通路。その入口に坂田ら上級生の三人がいた。


「おう、チビ」

「お前、なんで俺の通学路がわかったんや!」


 坂田は偉そうに笑った。


「俺の父親は保護者会の会長だ。今年度の転入生リストが家にあったぜ。住所はそれでバッチリだ」


 それはまた息子がアホで親父が気の毒。


 俺はタクにリュックを預けようと肩から外した。


「タク、先に行っといて」

「いや、一緒に行くよ」


 俺はタクを見た。目は本気だった。


「ふたりまとめて来いよ」


 上級生三人に連れられ、大通りから外れた道を歩く。まいったな。タクがいなかったら、適当にやって走って逃げようかと思ったんだが・・・・・・


 連れてこられたのは月極の駐車場っぽい。朝の出勤後なのか、止まってる車は少なかった。大通りから一本奥だし、住宅街でもないので、人通りはなかった。


「昨日は、大人数にやられたがな・・・・・・」


 坂田がしゃべり始めた。どうしようもなくアホだな。一対一の相撲だったやん。


 これもう、ぶっとばしたほうが早いな。そういう気分になった。


「タク、一人行けるか?」


 となりに立つタクに小声で聞いてみた。


「あんまり自信ないけど」


 小声で返ってきた。


「目の前の一人、時間稼いでくれ」


 タクの前は昨日もいたロン毛だ。


「おめえみてえな生意気はな・・・・・・」


 しゃべってる坂田に走った。びっくりした坂田のアゴを下からカチ上げる。


「てめっ」


 うしろの上級生。ふり返って向かう。殴ろうとしてきたので腹へ前蹴り。倒れた腹にもう一発。


「タク!」


 こっから行くぞ! そう言おうと名前を呼んで振り返った。タクが倒れたロン毛の肩を抱いている。


「あう・・・・・・」


 ロン毛は倒れて上を向いていた。両方の鼻から盛大に鼻血が噴き出ている。あちゃ! パンチが鼻に入ったな。


「コウ、思いっきりパンチしたら・・・・・・」


 タクが動揺している。タクはあんまりケンカした事ないんだろう。鼻は簡単に折れる。普通は本能でそこへは殴れないんだが、ロン毛が避けたはずみでまともに入ったんだろう。


 ロン毛が鼻を押さえた。


「あっ、アカンで!」


 ロン毛は口から血を吐いた。そうなんだ。多すぎる鼻血の時に鼻を止めると逆流する。


「うわぁ」


 坂田ともう一人の上級生が、それを見て逃げ出した。なんでやねん! 仲間やろうが!


 倒れたロン毛に駆け寄り、そばにしゃがんだ。


「鼻の穴を押さえたらアカン。押さえるなら上や」


 ロン毛は動揺してて、俺の言葉が聞こえてない。


「タク、救急車呼ぶか?」


 タクが俺を見た。だめだ、わかってない。


「タク、救急車!」


 タクがはっとしてスマホを出して電話をかける。俺はスマホを持ってない。




 救急車はすぐに来た。


 救急隊員は慣れた感じでストレッチャーにロン毛を載せる。


「君ら、友達?」


 救急隊員に聞かれた。答えに困る。


「なにあったの? ケンカ?」

「俺の・・・・・・後輩です・・・・・・」


 ストレッチャーに載せられたロン毛が言った。


「ケンカか?」

「・・・・・・ちがいます」


 ロン毛、俺らをかばうか。


「一緒に行っていいですか」


 ダメ元で聞いてみた。


「じゃあ乗って、すぐ出るから!」


 おお、意外にOKだった。


「タク」

「俺も行くよ」


 タクの顔は沈んでいた。まあ殴った本人はそうなるか。

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