おまけⅡ第13話 根岸光平 「遭難者発見」
有馬が空き地に入ってきた。
ほかのクラスメイトも直に来るだろう。さっき、タクがグループトークに俺らの居場所を書いたからだ。
有馬はスマホを耳にしてる。誰かと電話してるのか?
「ああ、姫野。二人、生存確認。外傷なし。詳細は追って知らせる」
姫野への電話か。いや、生存確認って、俺らは遭難者か!
「お前、昨日の・・・・・・」
有馬が芹沢に気づいた。向かって行こうとしたので、その前に立って止める。
「俺ら、偶然会っただけや」
「偶然なわけないだろ」
俺はそれより、有馬たちの事を聞きたかった。
「そっちはどしたんや」
「ああ、コウとタクが登校してるのは、玉井鈴香が見た。それが一時間目が終わっても来ない。昨日の今日なんでな」
それでみんなで探してくれたのか。大ごとになってもたな。
もう一度、有馬は芹沢を見た。
「その鼻、どうした?」
「これはな、ええとな・・・・・・」
「いい。俺から話すよ」
どう言おうか考えていると、芹沢がこれまでの事を話した。
「また、あいつか」
有馬の言葉に芹沢がうなずいた。
「坂田もあっけなくやられたから、さすがにやめるだろ」
芹沢は、うんざりしたような顔を見せた。
「ただ、有馬、だったよな。お前と飯塚は、三年から見ても目立ってる。気をつけろよ」
有馬は頭をかいた。
「そう言われてもねぇ。清士郎がいるしなぁ・・・・・・」
いや、どっちかっていうと、飯塚じゃなくて、おまえやろ! と言いたいのを我慢する。
そうこうしていると、昨日いたほとんどが空き地に集まった。
「タクくん、平気?」
「タク、連絡しろよ!」
みんなが口々に聞いてくる。
「まあまあ、一斉に聞くなって。なんかな、芹沢さんと偶然、一緒になったんだって! んで、芹沢さんがケガしてたんで、病院に行ったそうだ。以上!」
以上って有馬、それで誰も納得はしないだろうよ。いやそれよりも・・・・・・
「みんな、学校どないしてん」
「うん? 二時間目からサボったぞ」
「んなっ!」
俺とタクのせいで、何人がサボってんだ? これ大問題になるぞ。
しかし、どうりでノロさんが汗だくなわけだ。ノロさん、心配しすぎて一時間あまり走りっぱなしじゃないのか。
「あっ、そういや、ノロさんは?」
ノロさん、資材置き場の横で寝転んでた。顔が真っ青。
「ノロさん、だいじょぶか! 誰か水とか持ってへん?」
俺の言葉に女子の一人が「買ってくる」と走って行った。
「ノロは体が弱いからな。大事にしてやってくれ」
お前が言うなや! そう言おうとしたが、この芹沢は初日の自転車置き場にいなかった。意外と悪いやつでないかもしれん。
「悪かったな」
芹沢がそう言って腰を上げようとしたら、有馬がスマホを耳にしたまま「待った」とジェスチャーした。
「うんうん。本部は? なるほど」
また姫野と電話してるのか?
「本部ってなんやねん」
俺の疑問には、隣のタクが答えた。
「姫野んち、スーパーなんだ。そこに何人か待機してたみたい。地図をプリントアウトして、誰がどこを探すとか、まとめてたみたい」
「ほんとに災害対策本部やんか! このクラス、どうなっとんねん」
すでに一年間の同じクラスだったとは言え、異常すぎる。
「苦い経験があるから」
「経験?」
「一年の時に、林間学校があって。キャンプ場に来てた家族がいなくなって」
「行方不明?」
「そう。午前中から来てたのに、昼ご飯の用意をしたまま姿が見えない。キャンプ場の人に言っても何もしないから、1年F組のみんなで探したんだ」
そんな過去が。
「でも、みんなあたふたしちゃって。結局、夕方に発見できた。発見したころには、その家族のお母さんが・・・・・・」
まさか!
「骨折してた」
骨折かい!
「森で迷って焦りすぎたみたい。もっと早く発見すれば、お母さんも無理する事なく、骨折しなかったかもしれない。後遺症が残るって聞いたし」
まあ、それは悲しい話やけども!
「だから、けっこうみんな、過敏になってるんじゃないかな」
なるほどな。
「オーケー。人数を確認する」
電話をしていた有馬がそう言って、いったんスマホを外した。
「おーい、みんな、姫野たちがサンドイッチ持ってきてくれるって! 食べる人ー!」
えっ、どういうこと?
「それって、エマちゃんのサンドイッチ?」
女子の誰かが聞いた。
「おう。喜多も本部にいるからな」
「食べるー!」
「私もー!」
エマちゃん? 聞く前にタクが教えてくれた。
「喜多絵麻。キッチン喜多っていう洋食屋の娘で。料理の腕がすごいんだ」
これはタダ飯のチャンスか!
「芹沢さん、どうします?」
「いや、俺は、もう・・・・・・」
「おっけーい! 姫野、全員だ。20・・・・・・9! 29だな」
有馬、人の話はちゃんと聞こう。それに問題がある。
「有馬、ここ、人の土地やぞ、あんま勝手したら・・・・・・」
見かけないと思ったら、飯塚がこれもスマホで電話しながらやってきた。
「はい・・・・・・はい・・・・・・ええ、こっちで雑草なんかも抜いときますので。はい、ありがとうございます」
飯塚が電話を切った。
「オッケーだ。ここの管理してる会社に連絡取った。掃除と草抜きの代わりに使っていいってさ」
飯塚、ほんとに社長のボンボンなんやな。それも
上級生の芹沢がポカンと口を開けて固まっている。うんうん。俺はこのクラスの人間なんだが、今なら芹沢のほうが話が合いそうだ。ほんまに。
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