おまけⅡ第9話 根岸光平 「大将戦」

 妙な成り行きになった。


 向こうの大将は飛び入りの金子。その金子には「勝ったら女子とデート」というのは言ってないようだ。そこだけは坂田を褒めよう。


 有馬が行くと思ったら、小暮元太がまだ自分だと言う。勝ち抜き戦なので、たしかに勝った小暮に権利はある。


「やめといたほうが、ええんちゃう? あいつ、頭おかしいで」


 服を着た小暮は譲らなかった。


「これは団体戦だから。ぼくが少しでも次の負担を減らさないと」


 意外だ。転校初日でも、有馬と飯塚がクラスの中心であることはわかった。でもそこに頼り切ってはないのか。不思議なクラスやな。


 行司の代わりをする事にした。さっきのような自然な立会いは無理だろう。ふたりが仕切り線に手をついた。


「はっけよい!」


 俺が言うと同時にふたりは立ち上がった。組むかと思ったら金子は中腰だった小暮の頭めがけて回し蹴りを放った!


 小暮は腕でブロックしたが、その勢いに倒れる。


「はい、俺の勝ち-」

「お前、なんしよんねん!」

「あっ? 拳は使ってないぜ」


 こいつ!


 ぶっ飛ばしてやろうとした、その時、間延びした声が聞こえた。


「に~し~、カネコの~う~み~」


 もう、ふり向かなくてもわかる。有馬だ。


「ひが~し~、ありま~ふ~じ~」


 有馬が土俵に入ってきた。俺を見てにかっと笑う。


「見本、見せるぜ」


 見本? さっき言ってた同じ土俵で戦うな、というやつか。


「おい、カネゴンさん、やろうぜ」


 有馬の言葉に金子の眉がピクっと動いた。カネゴン嫌いなんだろうか。俺は大好きだ。


 ふたりが仕切り線に手をつく。


「はっけよ・・・・・・」


 言う前に金子は起きた。有馬の頭めがけて回し蹴り。有馬! そう叫ぼうとしたら有馬は後ろに下がった。恐ろしい早さだ。下がると同時に右拳を引いて構えた。空手?


「ドーン!」


 有馬はかけ声とともに動いた。するどい踏み込みと同時に拳を打った。金子が吹っ飛ぶ。


 殴ってるやん! そう思ったら、有馬の手は開かれていた。


「なっ! コウ」


 なっ、ってちゃうわ!


「突っ張り、だろ?」

「ちゃうわ! それ掌底や!」


 線の外まで吹っ飛んだ金子がむくりと上半身を起こした。


「てんめえ!」


 金子が言い終わらないうちに有馬が間を詰めた。上から打ち下ろすように拳を構える。


「ひっ!」


 金子が一目散に逃げていった。逃げ足が速い。


 有馬は立ち尽くしている上級生たちに振り返った。


「まだやるか?」


 有馬が言った。坂田と上級生の一団は舌打ちして帰って行く。


「終わりだな。コウ」


 俺の横に飯塚が来て言った。


「さっきの有馬、ちょっと怖かったで」


 正直に言ってみた。打ち下ろすように拳を構えた時、悪い事が起きそうな気がした。


「ああ、有馬の家は骨法だからな。拳の狙いは正中線。さっきなら鼻だろう」


 怖っ。その当の本人は、空き地の隅に駆けて行った。しゃがんで何かを拾ったようだ。


「やっぱり、おおい! ボールあったぞ!」


 有馬が掲げているのは、青いゴムボールだった。まさかとは思うが・・・・・・


「野球しようぜ!」


 俺は空を見上げ、ため息をついた。なんやねん、この青春まっただ中みたいな男は!






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る