おまけⅡ第7話 根岸光平 「中堅戦」
「おい、チビ、さっさと入れ!」
坂田が怒鳴った。俺が「アホの坂田」と言ったから、悪口を考えていたらしい。
「なんかもっと、ひねった悪口ないんか」
「よっ! 豆小僧!」
「張り合わんでええねん、有馬は!」
見切り戦で見合った。こいつ、すぐ手が出るからな。挑発して俺に向かわせたのはいいが、面倒だ。
「はっけよい!」
行司のかけ声とともにパンチが飛んできた。身をかがめて避ける。
「反則やん!」
行司の小暮元太が坂田の手を見る。坂田があわてて手を開いた。
「張り手だよ!」
今度はきちんと張り手にしたようだった。素早く動いてかわす。逃げるのは得意だ。なんせヤミ金の連中は、子供でも容赦なく捕まえようとくるからな!
「この野郎、ちょこまかと」
坂田の顔が真っ赤になってきた。張り手がまたグーパンに変わる。
「おい、行司!」
小暮元太が割って入った。
「うるせえ!」
坂田が小暮を殴った。こいつ、もうアカンな。
「コウ、相手の土俵で戦うな!」
有馬の声。相手の土俵? だってこいつクソやん! 待てよ、クソ?
坂田が前蹴りしてきた。うしろにステップしてかわす。線のギリギリ。そこへ殴りかかってきた。俺はかがむと同時にサイドステップして坂田の背後を取った。
「早い!」
有馬のおどろいた声。俺はしゃがんだ。両手を合わせ二本立てる。
「そりゃ!」
ズン! と音がして刺さった。
「んぐっ!」
坂田がケツの穴を押さえて倒れた。
「両者、反則負け!」
行司の小暮元太が言った。えっ、そうなん?
土俵の外に出ると、有馬と飯塚が腹をかかえて笑っていた。
「コウ、こいつが言ったのは殴り合わず相撲しろって意味だ」
「清士郎、いいって。さすが関西人。斜め上だわ」
くそっ。カンチョーが反則になるとは思わなかった。
「しかし、すごかったな和樹」
「ああ」
「あのサイドステップ」
「ちがうだろ、見るとこが」
「じゃあ、どこだよ」
「第二関節まで入ったことだ」
ふたりがまたケタケタ笑った。賭けの対象になっている女子五人を見ると、あっけに取られている。姫野は眼光鋭く、たぶん怒っている。
「失敗や。ちょっと女子にあやまっとくわ」
「ああ、それがいい」
飯塚は笑いながらうなずいた。
「コウ」
女子のほうに行こうとしたが、有馬の声にふり帰った。にかっと白い歯を見せて有馬が笑う。
「手、洗えよ」
「ほっとけ!」
あかん。今日初めて会ったヤツに、二度目の本気ツッコミを入れてしまった。
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