おまけⅡ第5話 根岸光平 「試合開始」

 先鋒:蛭川 日出男

 次鋒:飯塚 清士郎

 中堅:根岸 光平(俺)

 副将:小暮 元太

 大将:有馬 和樹


 こっちのメンバーは決まった。


 集まって話していた8人の上級生も、輪を解いた。決まったらしい。坂田が前に出てくる。あいつが最初か! てっきり大将だと思ったが。


「おい、アホの坂田」


 坂田が俺をにらんだ。


「その名前で呼ぶな。もう一度言うとキレるぞ」


 それこそアホか。全国に坂田さんが何人いると思ってんだ。そんな事でキレてたら、大阪は火の海になっとるわ。


「せやな。笑いの神様に失礼やったわ。お前にアホはつけてやらん。坂田、わいは三番手や。おどれも三番に入れ」


 坂田は青筋たててスゴみを利かせてきた。


「どこまでナメてんだ。お前が最初に来い」

「まあまあ」


 ロン毛の芹沢が出てきた。


「俺とチェンジしようぜ」


 ロン毛が三番手だったか。坂田は不服そうに下がった。ご期待通りな捨てゼリフも吐く。


「覚えとけよ」


 この短時間でどうやって忘れんねん。


「セレイナちゅわーん、待っててねー」


 この芹沢ってやつも、ご期待通りの軽さだな。




 土俵の中央、日出男と芹沢が向かい合った。


「はっけよい!」


 行司役の小暮元太 が言った。


 日出男が頭から芹沢に突っ込んだ。芹沢はずずっと少し後ろにすべったが、難なく受け止めている。


 日出男の背は低い。芹沢の胸元ぐらいだ。それに日出男は何かスポーツをやっているふうでもない。これはすぐ決まるか。


「セレイナちゅわーん、デートはどこにする?」


 芹沢は組み合いながら言った。余裕だな。


「カラオケ? 映画? それともご休憩?」


 日出男がいったん下がった。もっと頭を低くして突進する。芹沢はそれも受け止める。


「うざいね、きみ」


 芹沢の腹に頭を押しつけている日出男。芹沢が上から手を回して抱え上げた。パイルドライバーのような体勢になる。


「うわああああ!」


 日出男が手足をバタつかせた。あぶない! 頭から落ちる! 芹沢もそう思ったのか、日出男を下ろした。


「そうがんばるなよ。なんかハズいぜ俺」

「うおぉぉぉぉ!」


 芹沢の声も聞かず、また突進する。ふいに方向を変えて太ももにタックルしようとした。


「あっ!」


 見ていたみんなが声を上げた。避けようとした芹沢の膝が、日出男の顔にまともに入った。


「ぷはっ」


 日出男が鼻血を出した。眼鏡のフレームもゆがんでいる。そのまま倒れるかと思いきや、日出男は芹沢の太ももに抱きついた。


「おい、離せよ!」


 芹沢がぶんぶん太ももを振った。日出男の顔が揺れ、鼻血が垂れる。


「汚え。やめろって!」


 それでも日出男は離さなかった。


「きみ、なにマジになってんの!」

「・・・・・・ならぬわけなかろう」

「はあ?」

「セレイナ殿のデート券、マジにならぬわけなかろう!」


「「「「「「「そこ!」」」」」」」


 クラスのみんながツッコんだ。


 そしてそれ、相手の勝利品やん。こっちは関係ないやん。


「キモッ! きみ現実見ろよ!」

「現実見るのはそっちでござる! セレイナ殿のような天界美人とデートするチャンス! 人生に一度の好機! そっちこそ命かけろゴルァ!」


 ゲスオの気迫に芹沢がひるんだ。


「うわっ!」


 芹沢が地面に埋まっていた石にカカトを引っかけた。そのまま二人が倒れる。日出男は太ももを抱えたまま、芹沢の上になった。


 みんながシーンと黙っている。芹沢が上半身を起こした。


「おい、離せって!」


 日出男は太ももにまだ抱きついている。有馬と飯塚を見た。ふたりは腕を組んでじっと見ていた。


「気ぃ失ったかな」


 有馬が腕を解いて歩き出した。飯塚も続く。


 ふたりは芹沢から日出男を剥がし、仰向けにした。日出男が目を開ける。気づいたようだ。


「勝ったでござるか?」

「ああ」

「では、次は次鋒でござるな。起こしてくだされ」


 まだやる気かいな!


「日出男」

「起こしてくだされ」

「もうやめとけ」

「いやでござる」


 クラスの集団から、だれか動いた。セレイナだ。土俵に入り、日出男のそばにしゃがむ。


「蛭川くん」

「はっ」

「無茶しないで」


 日出男は体を起こそうと食いしばった。頭が起きる。でも体が動かないようで、いったん休んだ。


「しばしお待ちくだされ。この蛭川日出男、奇跡を起こすでござるよ」

「もう奇跡は起きたよ。だれも蛭川くんが勝つと思ってなかった」


 セレイナはスカートのポケットからスマホを出した。何か画面を出して仰向けの日出男に見せる。


「ID、覚えた?」

「はっ。この目でしかと」


 メッセージアプリのIDか! ということは・・・・・・うそやろ、デート成立か!


「映画がいいかな。何かある?」

「来月公開の101匹ワンチャンがオススメかと」

「いいね」


 日出男、意外と乙女チック!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る