おまけⅡ第4話 根岸光平 「団体戦」

「ふざけんな!」


 上級生の坂田が怒鳴った。


 まあ、ケンカしにきた相手に「相撲しようぜ!」って言われたら、そうなるわな。


「ふざけてないって。おーい、ゲンター!」


 2年F組の中から、ひときわデカイ男が出てきた。


「ゲンタは相撲部なんだけど、部員が足りなくて。強いヤツいたら、部員になってくんない?」

「ふざけんな!」

「あー、じゃあ、そっちが負けたら部員になってくれる?」

「ふざけんな!」


 横にいる飯塚が声を殺して笑っている。


「どっちも、ふざけてないのが面白いな」


 言えてる。


「おい、坂田」


 うしろにいた上級生から、ロン毛の男が前に出た。坂田の肩に手を置き、2年F組の一人を指差した。


「あれ、モデルのセレイナじゃないか?」


 背の高い美人。たしかに姫野がセレイナと呼んでいた。


「おい芹沢、めちゃ美人だけど、ほんとにモデルか?」

「ああ、妹が読む雑誌によく出てる」

「まじか!」

「うちの学校だって噂は聞いてたんだが、ほんとなんだな」


 芹沢と呼ばれたロンゲは、有馬に言った。


「俺が買ったら、セレイナとデートしていいか」


 うわっ、ロン毛っていつの時代もナンパ師だな。


「それはダメだ」


 有馬はきっぱり言った。


「おれが決めれることではないし、お前が決めることでもない」

「アタシ、なにか用だった?」


 セレイナが来た。


「俺が勝ったら、君とデートできるってさ」

「そんな事は言ってない」


 おお、有馬がちょっと怒ってきたぞ。無表情だが、俺の肌がざわっときた。


「いいわよ、別に」

「おい、高島!」


 高島と言うのか、あの美人は。


「負ける気、ないんでしょ?」

「ない、けどよ!」

「飯塚くんは?」

「ないな」

「じゃあいい。信頼してる」


 くすって笑った。それがまた絵になった。アカン、やっぱ女は魔性や。


「1対1デートはダメよ!」


 姫野が出てきた。


「わたしも一緒に行くから」

「おお・・・・・・」


 アホの坂田、鼻の下が伸びてるぞ。

 

「俺、この子でいい」


 姫野が嫌そうに坂田を見た。坂田、気持ちはわかるが、言い方があかん。


「ヒメっちー! ウチも行くー。ほら、ミナミもー!」

「ワカ、なになに? あたしらもスモウするの?」


 小さくて丸っこい可愛い女子が出てきた。姫野の友達か。


 あっ、そうだ。俺はポケットから紙を出した。日出男というやつがノートを破って寄越した。クラス全員の名前を書いてくれている。


 ・・・・・・ワカ、ワカ、あった。これか。うん? 名前の横に特徴を書いてくれてんのか。


「黒宮和夏 >小さな巨乳」


 日出男、あいつ最低だな。


「はぁ、世話かかるわね。ボディガードしようかしら」


 おお、でっかい女子も出てきた。友松とか言ったか。彼女の特徴はなんだろ?


「友松あや >大きな巨乳」


 よし、これは後で捨てよう。落とさないように俺は内ポケットに紙を入れた。


 女子五人が出てきて、坂田がニヤニヤしている。


「五人か。いいだろうリーグ戦だな」


 団体戦だ。総当たりしてどうすんねん。上級生の坂田は、やはりアホだ。




 それから2年F組の男子が固まり、誰が出るかの作戦会議。


「俺と和樹、相撲部のゲンタは出るとして、あとはどうする?」


 飯塚が言った。


「俺、出てもいいよ」


 ちょっと肩幅のある男子が言った。あの肩幅、水泳部か?


「タクか。いいかもな」

「待てよ、元は、おれとコウの話だったんだ。コウは出るだろ」


 有馬が俺を見た。俺はうなずく。飯塚が笑った。


「いいだろう野生動物だからな」

「野生動物?」

「ああ。お前んちの古武術、コウに習わせてもいいかもな」


 有馬の家は古武術をやってるのか。


「お誘いは嬉しいけど、あかん。そんな余裕ないねん」


 習い事をするような余裕はない。


「和樹の友達なら、どうせタダさ」

「いや、今日会ったばっかりやで」

「こいつに、そういうのは関係ない」

「うん? 清士郎、なんの話だ?」

「コウは友達かって話」

「はぁ? ほかにどう呼ぶんだ?」


 頭が痛くなってきた。関西にいたころ「関東モンは冷たい!」と聞いた。ここはどうも異次元らしい。


「あと一人、どうする?」


 ふふっ、と笑ったヤツがいた。眼鏡をかけたチンチクリン。


「そこは拙者せっしゃでござろう」


 有馬と飯塚は互いを見合った。


「日出男、お前は相撲に向いてない」


 飯塚が諭すように言った


「向いてなかろうが出るでござる!」

「やめとけ」

「ならば、向こうに寝返るまで!」


 おいおい、なんか無茶言いだしたぞ。


「ったく。こいつ、たまに強情になるんだ。いいか? コウ、ゲンタ」


 ゲンタと呼ばれた巨漢はうなずいた。俺もそこまで異論はない。


「日出男はワガママだからな。おれが全部勝つさ!」

「むぅ、天然ワガママの和樹に言われたくないでござる!」

「おいおい、和樹は大将だろ」

「先鋒がいい! 5人抜きする!」

「お前は大将だっつの!」

「くそっ、寝返ってやる!」


 ほんまや。有馬は天然だわ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る