おまけⅡ第2話 根岸光平 「放課後」

「えっ、お前、こいつのクラスメート? 2F?」


 坂田がおどろいている。


「せや」


 上級生四人が見合って笑った。


「お前、気の毒にな。こいつがいると苦労するから」

「そっちは、もうクラスメートちゃうやろ。ほっとけや」

「あら? 関西弁? 転校生?」

「そうや」

「転校生にしちゃ、ずいぶんナメてるね」


 いつも思うが、このナメるってなんだ?


「おーい!」


 間の抜けた声が上から聞こえた。見上げるとトイレの窓から男子が顔を出している。有馬和樹だ。


「コウ、なんか揉めごと?」


 コウって、あだ名で呼ぶか? さっき会ったばっかりで。


「いや、なんでもないわ」


 上級生も窓を見上げた。


「なんだ、お前、ちょっと降りてこいよ」

「はいよ」


 有馬は窓枠に足をかけた。嘘やろ!


「はっ!」


 有馬は二階の窓から飛んで、見事に着地した。上級生四人も目を丸くしている。


 歩いてくる有馬を見て思った。ただもんじゃない。漂ってる空気が違う。


「なんか用?」


 有馬は上級生に向かって言った。


「お前、誰だよ!」

「誰って、2年F組の有馬和樹」


 その時、チャイムが鳴った。


「有馬か。覚えたぞ」

「ういす。ありがとうごいます!」


 いや、有馬、そういう意味じゃないと思う。


 上級生四人が去って行った。残されたのは2年F組の三人。


「コウ、この人は?」

「あっ、ええと、ダブって俺らのクラスになる人」

「ええ! 君らも、2年F組なの?」


 おいおい、俺の話を聞いてなかったのか。ノロマって言われてたのは、あながち本当なのかも。


「おれ、有馬和樹」


 そして有馬。お前は、すぐ名乗る。


「あ、えっと、野呂爽馬と言います」


 なるほど、ノロソウマ、略してノロマか。


「ノロさん、こっちは根岸光平ね。んじゃ、コウ、教室帰ろうぜ」


 有馬はダブった上級生でも、いきなり馴れ馴れしく呼ぶ。あれか、こいつは人との距離感がゼロか。


 三人で教室に帰ると、席は埋まっていた。空いているのは奥の一番後ろが二つ。


 あとで聞いたのだが、一年の最後に座っていた席順にみんな座ったらしい。俺とノロさんのために追加した二席が空いていたわけだ。




 この日は始業式とホームルームだけ。


 11時前には終わった。帰ろうとしたら、隣席のノロさんこと野呂爽馬さんがスマホをじっと見てる。そしてじっと固まってる。


「なんか、ありました?」


 ノロさん、スマホをひっくり返し、画面をとっさに隠した。


「ううん、なんでも」


 それ、99%なにかあるやん。


「見せてください」

「いいよ」

「ええから見せて」


 ノロさんがしぶしぶスマホのを寄越した。送ってきた文章は短い。


「今朝の二人、ここに呼んでこい」


 ご丁寧にマップを添付してる。アホの坂田のくせに、こういうのできるんだ。


「こんなん、ほっといたら、ええんちゃう?」

「うん。でも、そうすると学校でまた坂田くんが怒っちゃうから」

「ええやん。そっちのほうが先生に見つかるわ」

「うん。そうすると坂田くんが怒られるから」


 はぁ? お前は優しき修道僧か!


「ほな、わいも行くわ」

「い、いいよ。危ないよ」


 俺は思わず天井を見上げた。このノロって人は馬鹿じゃない。自分の事とか状況はわかっている。ただ、考えが異次元だ。


「なるほど。おれとコウに用事か」


 有馬和樹が俺の肩にアゴを乗せ、スマホを見ていた。


「清士郎!」


 有馬はちょうど教室から出て行こうとした飯塚を呼んだ。


「わりぃ。先に帰ってくれ!」

「なんか用事か?」

「ああ、上級生が俺に用事あるみたいなんで」


 クラスのみんなが一斉に振り返った。大声で言うなよ!


「ああ? なんで、お前が呼び出し喰らうんだ」


 飯塚が、ちょっと怒った。


「呼び出し? いや出かけるんだ」

「相手は上級生だろ?」

「そうだ」

「そういうのを『呼び出し』って言うんだよ!」


 あかん。この有馬は状況がわかってない。それプラス、考えが異次元だ。


 気づけば、クラスのほとんどが集まっていた。なんなんこのクラス!


「ここは・・・・・・今は空き地になってたはずだ」


 ノロさんのスマホを見ていた飯塚が言った。


「そっか。まあ、そういうわけで行ってくるわ」

「待てよ。俺も行ってやるから」


 集まった人の中から、女子がひとり出てきた。たしか姫野とか言ったか。クラスで一番か二番の美人だ。


「飯塚くん、危なくない?」

「俺と和樹がいるからな。まあ、大丈夫だろう」


 自分、自信すんごいな。


「んー・・・・・・」


 姫野は少し考えてるようだ。


「じゃあ、わたしも行く!」


「「「はぁ?」」」


 同時に声を上げたのは、俺と飯塚と有馬だ。


「女子はよせよ」

「だって、飯塚くん、危なくないんでしょ?」

「そうだと思うが、ああそうか」


 飯塚は何か気づいたようにうなずいた。


「女子がいれば大ごとにならない。また俺や和樹が無茶しない。そう思ったか」


 姫野は頬を押さえ「あら、なあに?」とでも言うように、わざとらしくふざけた。


「ヒメ、じゃあ、うちも行くわ」


 デカイ女が来た。友松あやだっけな。


「おいおい、おだやかじゃねえぜい。女子が行くんならあっしらも行かねえと」


 なんだこの時代劇みたいなヤツは。 


 結局、その場にいたほとんどが行くことになった。


「ドク、なにか面白いことがおきそうでござる! 来るでござるか?」


 日出男とかいうヤツは、いないヤツまで電話して誘ってる。


 ・・・・・・なんやねん! このクラス!




 

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