おまけⅡ第1話 根岸光平 「転校初日の始業式」
東京に行くと思ったら、川崎かいな。
まあ、どこでもええけど。関東は関西と比べて品がええから、大人しくしとこ。
そんなことを思いながら、俺は教室の扉を開けた。
「おお? 転校生?」
陽気な男に声をかけられた。いや、そうだけど、なんでわかった? 今日は始業式だ。クラス替えがあって、みんな初対面みたいなはず。
そう思ってまわりを見回したが、なんだが雰囲気が変だ。クラスの男女は勝手知ったる感じで、わちゃわちゃと喋っている。
「ああ、違和感感じた? このクラスはメンツが一年と同じなんだわ」
そういうことか! なら俺だけ新人ってわけだ。
「有馬和樹だ。よろしくな」
いまどき、握手を求められるとは思ってなかったので、戸惑った。にかっと笑った顔は、かなりのイケメン。クラスの女子数名が俺らをチラ見した。おお、こいつ、ぜったいモテるぞ。
「根岸光平や」
差し出された手を握り返す。
「おお? 関西人?」
「まあな」
「親の転勤?」
答えにくい事をいきなり聞かれた。親父の借金で全国を逃げまわってるとは言いにくい。
「和樹、お前はプライバシーって配慮がないのかよ。いきなりなんでも聞くな」
俺の後ろから声がした。振り向いてみると、こちらもイケメンだ。有馬と名乗った陽気なイケメンに比べ、こっちは見るからにクールだ。
「俺は飯塚清士郎。わからない事があったら、なんでも聞いてくれ」
そう言って、さきほどの有馬を連れて一番後ろの席に向かった。
「ふふふ、なんでも聞けとは笑止! あの二人は非常識の塊。アテにしないが吉でござるよ」
もう一度ふり返ると、そこにはチンチクリンで眼鏡をかけたやつがいた。
「拙者、日出男と申す者。あの二人は要注意でござる」
いや、お前が一番、あやしい人物に見えるんだが・・・・・・。
しかも、その日出男、俺と喋ったあとにイケメン二人が座る最後尾のすぐ前に座った。うそやろう、その三人でグループかいな!
そして気づいた。これ、席順どうなってんねん。
とりあえず、トイレに行こう。それから戻れば一時間目の時間だ。空いてる席がわかるだろう。
俺は教室を出ようとして、入り口ではしゃいでいる女子二人に目を見張った。
「ヒメー! また一緒!」
「セレイナ! すごいよね、みんな一緒なんて!」
すんごい美人の二人だ。あれか、これが関東の実力か?
俺は気後れしながら女子二人の脇を抜け、トイレに向かった。トイレは予想通り、廊下の突き当たりにあった。
用を足していると、男子数人の声が聞こえる。
「おい、ノロマ、待てよ」
声は廊下からではなく、トイレの端にある小窓からだ。それも下の方から。ここは二階だ。下に誰かいるのだろうか。
この学校は一年が三階、二年が二階、三年が一階と、学年が上がれば教室は逆に下がっていく。
俺はチャックを上げて窓から下を見下ろした。校舎のうらで自転車置き場だ。
ひ弱そうな男子が、上級生に囲まれている。下級生へのいじめか?
「お前、まじでダブったのかよ」
「うけるー!」
いや、ひ弱そうなやつは、元同級生なのか。自転車置き場のまわりを見た。もうすぐ授業の開始なので人影はない。朝一からイヤな光景を見せてくれるわ。
「こいつ、2Fらしいぜ」
「うげっ、真下の2Fかよ」
・・・・・・2Fって、俺の転入先やん。
このまま黙って行くのも寝覚めが悪いか。俺はトイレを出て階段を降りた。早足で校舎をぐるっとまわる。誰かが通れば、やめるだろう。
俺は何気ない足取りで、自転車置き場を歩いていった。前方に、さきほどの上級生たち。まだダブったやつを囲んでいる。
横を通るときに、ちらっと見る。これでやめるだろうと思ったら、こっちに矛先がきた。
「なに見てんだよ」
関東弁で言われると、意外にむかつく。
「あのう、二年F組の教室はどこでしょう?」
「あん? おめえ、転校生か?」
「あっちにまわると階段があるから。二階が二年生の教室だよ」
ひ弱な男子が校舎の向こうを指差した。
「早く行った方がいいよ、もう授業が始まるから」
いや、あんたを助けようとしたんですけどね。
「ノロマが先輩風かよ!」
上級生の一人が、そう言って背中を足裏で蹴った。ひ弱男子が倒れる。おいおい、この学校、意外にガラ悪い?
「おめえは、いつまで見てんだよ」
蹴った男が俺の方に歩いてこようとした。まずいな、初日で問題は起こしたくない。
「坂田くん、授業に遅れるよ」
ノロマと呼ばれた、ひ弱男子が立ち上がった。俺に向かって笑顔も見せる。上級生は坂田って名前か。しかしノロマさん、なんで俺をかばうかね。
俺は、まわれ右をして歩き出した。
「おい、なに、勝手に行こうとしてんだよ」
「坂田くん、彼はいいから、そろそろ行かないと授業が」
「ノロマが注意すんな!」
また、ずざっと人が倒れる音がした。アカン。気分悪いわ。
「おい」
俺は立ち止まった。
「ああ?」
「さっきから、わいのクラスメートに、なにしよんねん」
俺はアホの坂田に向かって言った。
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