おまけ第3話 有馬和樹 「ここはゲーセンか!」
茂木のアクセサリー店を離れ、大通りに戻る。
物を作れるって、やっぱりいいな。戦闘班だと何も出しようがない。
そう思いきや、露天の一つで知った顔の巨漢を見つけた。小暮元太だ。森の民の男たちと腕相撲をしている。なるほど、ゲーセンの腕相撲ゲームだな。いや、普通に腕相撲か。
ゲンタの腕相撲には、森の民の屈強そうな男どもが並んでいる。
おお? 次の相手はカラササヤさんだ。あの人、槍を自分の手足のように振り回す人だ。中肉中背に見えて、力は強いと思う。
「れでぃ・・・・・・」
レフェリー役らしき森の民の男が、ふたりの腕を動かないよう押さえた。
「ごう!」
ふたりが同時に力んだ。中央でピクリとも動かない。こりゃ拮抗してるぞ!
「なんのこれしき!」
カラササヤさんが肩を入れた。うまい! やっぱり身体の使い方は熟練の戦士だな。
ゲンタが押され始めた。テーブルぎりぎりでなんとか耐える。これはカラササヤさんが勝ったな。
「いただきますぞぉ・・・・・・」
カラササヤさんが、くいしばりながら言った。
「・・・・・・ですかぁ!」
ぐわん! とゲンタが反対まで押し返し、カラササヤさんの手の甲をテーブルにつけた。まわりの連中が「おお!」と拍手する。
「強いですな」
カラササヤさんはゲンタと固い握手をした。おいゲンタ、こっそりスキル使っただろ。「元気ですかー!」のスキル名を小さくつぶやくのが聞こえたぞ。
おれもゲンタと腕相撲してみたかったけど、まだまだ人が並んでいるのでやめた。しかし食べ物だけでなく、みんな色々と考えるもんだ!
次に何をしようかと通りを歩いていると、横にいたゲスオがつぶやいた。
「む、むむ、あれは・・・・・・」
ゲスオの見た先は小さな露店だった。小さなテーブルに布をかけ、そこに光る石の球が乗っている。なんの店だ?
店の者も大きな布を頭からかぶり、目の所だけ切って見えるようにしている。
「あれ、ドクじゃないか?」
プリンスが言った。うそだろう。おれは布の穴から見える目と眉毛を見つめた。
・・・・・・ドクっぽい。まじか。
もちろん、知らないふりをして通り過ぎる。ドクのスーパー頭脳と鑑定スキルで占い! そんなの怖いわ!
「まあ、真実は知らないほうがいいとも言うしな」
「むぅ、カップルが行かないことを祈るでござる」
ふたりの意見に、おれも賛成。
そうこうしていると、もうひとつ閑古鳥が鳴くテーブルがあった。
工作班の作田智則。それに駒沢遊太だ。完全に暇を持て余していているようで、ふたりして夜空を見上げている。
テーブルの上には、二つの木人形が置いてある。作田智則はプラモとか、ジオラマが得意だったから木人形も自家製だろう。
「二人、何やってんの?」
作田に声をかけたら、おれらの顔を見て喜んだ。
「やっと人が来た!」
「座って、座って!」
駒沢に勧められ、テーブルの前に用意されたイスに座る。イスは二つあったのでゲスオも座った。
「誰も座ってくれなくて」
作田がぼやいた。そりゃあ、大きなテーブルに小さな木人形が二体しかない。それも顔のない簡単な人形だ。
「売り物ってこれだけ?」
おれの言葉は聞かず、おれとゲスオに向けて駒沢が手をかざした。
「両手をテーブルの上に出して」
言われた通り、両手をテーブルに置く。
「ワイヤレス・コントローラー!」
駒沢が叫んだ途端……まじか! ゲーム機のコントローラーが手の中に現れた。十時キーとAとB、シンプルだけどコントローラーに間違いない。
「まだ単純なのしかできないんだ。そのうち進化させるよ」
駒沢は自嘲するように笑ったが、いや充分だろう! 思わずゲスオと見合う。ゲスオもおどろいていた。
「えっ? 今、何が起きてんだ?」
プリンスが不思議そうだ。おれたちにしか見えてないのか。
シャキン! とテーブルの上の木人形が立った。作田が木人形を動かし、二体を動かして向き合わせる。二体とも、ボクシングのような構えをしていた。
まさか……?
「ラウンド1、ファイッ!」
作田が叫んだ。対戦格闘ゲームかよ!
おれしか見えないコントローラの「→」を押した。おお、動く。じゃあ「A」だ。おお、パンチ出た!
「よっしゃー、行くぞゲスオ」
突っ込んで行こうとしたら、下段キックで倒された。
「ゲスオ待てよ」
ボタンを連打して立ち上がった。それと同時に、また下段キックで倒される。
「この・・・・・・」
ボタン連打。今度は立ち上がってジャンプした。ゲスオの下段キックをかわすだめだ。
「ふふっ」
ゲスオの眼鏡が光った。ゲスオは下段キックをしていない。上段キックをされて宙にいたおれの人形がさらに舞い上がった。
「おい、ゲス・・・・・・ちょっと待て・・・・・・」
サッカーのリフティングでもするかのように、蹴り続けられた人形はテーブルの外に落ちた。
「さすがだなゲスオ、もうポイントを掴んだか」
「駒沢氏、このボタン配列なら予測はつく。簡単でござるよ」
駒沢は人形を拾い、ゲスオ人形の前に置いた。
「簡単? さて、それはどうかな」
「おお、参られるか」
「積年の恨みがあるからな」
駒沢の眼鏡も光った。こりゃダメだ。このふたりがやると長いぞ。
「作田、そういやさ・・・・・・」
作田は、腕を組んで対戦ゲームを見つめたまま言った。
「今朝のこと?」
「うん」
「あれは、キングが悪い」
その時、ガツン! と人形のいい蹴りが入って、喰らった人形が吹っ飛びテーブルから落ちた。
「まじかゲスオ! やりこんで来たのに」
「ふふふっ」
「駒沢、次、俺が行く!」
三人はゲームに熱中している。おれは席を立って「行こうぜ」とプリンスに合図した。
途中で葡萄酒を出しているテーブルを見つけた。ふたつもらってプリンスにわたす。
ふたりで大通りを歩いていると、懐かしい気持ちになった。こっちに来てからあれやこれやで、プリンスとふたりだけで歩くこともない。
「なあ、清士郎」
「なんだ?」
「そういや、お前は、どう思ったんだよ」
プリンスはこっちを向かず、無表情でコップの葡萄酒を飲んだ。
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