おまけ第2話 有馬和樹 「パンダはいないが馬車はある」

「キング、美味しい?」


 アイスティーを飲んでいると、黒宮が聞いてきた。


「ああ、うまいよ。クーラーボックスまで、できるようになったのか」


 黒宮の温度調節スキルも便利だ。冷蔵庫できちゃうんだもんな。


 褒めた黒宮は照れたように笑った。教室でうるさいぐらい喋るけど、対面で話すと恥ずかしがる。変なやつだ。


「あれ、門馬は?」


 おすわりスキルの門馬みな実、だいたい黒宮とつるんでいる。


「ミナミは、ももちゃんと一緒に、ケルちゃんの散歩」


 ケルちゃん? ああ、ケルベロスか。通話スキルの遠藤ももと一緒なら、何かあれば連絡あるだろう。


「ノロさん、吉野、黒宮、あのさ……」


 ここでも、おれが言う前に黒宮が口を開いた。


「キング!」

「は、はい」

「ヒメっちと仲良くして!」

「お、おう。別に仲悪くねえぞ」


 あいつ、今日は機嫌悪かったけどな。


「キングは一番、損な役回りね」


 吉野が言った。そうか? なんか一番、得してるような気がして、気が引けるんだが。


「い、一番辛いところをキングとプリンスがやってくれるから……」

「ノロさん、一番は農業班だって!」


 農作業をしてみてわかったけど、農業には終わりがない。戦闘班は戦闘が終わればなにもない。


 とりあえず三人も、帝国と戦うことに反対はないようだ。


 おれとプリンスは三人に礼を言い、ゲスオを追った。


「キング」

「うん?」

「そんな不安か? みんなに確かめるほど」

「そりゃ、わかんないだろ。戦いたくないやつだって、いるかもしれないし」


 プリンスは大げさに肩をすくめた。


「わかってないのは、お前だけだよ」

「んなっ!」


 ゲスオはグローエンじいちゃんと、ルヴァばあちゃんの屋台にいた。老夫婦の品物はもちろん、菩提樹クッキーだ。


 一枚もらってかじる。しっとりとして、ちょっぴり苦いクッキー。


「これもう、故郷の味だね」


 おれの言葉にじいちゃん、にっこり笑う。


「キング」

「なに? ばあちゃん」

「あぶないことは、だめだよ」

「うん。気をつける」


 ばあちゃんには、おれが出ていくってことだけが見えたのかな。いや、全部わかっているのかもしれない。


 二人に礼を言って、クッキーをかじりながら通りを歩く。


 青空美容室をやっているのが見えた。関根瑠美子だ。森の民の若い娘がショートカットに挑戦している。ありゃ、セレイナの真似だな。この里、ショートカットが流行りそう。


 歩いていると、森の民の人からも声をかけられる。頼まなくても一口ずつぐらい料理をわたされた。ピラフみたいな米の料理も合ったし、肉のあぶり焼きといった豪快な料理もあった。


 大通りに交差する道の先で、なにやら人が集まっている。空き地で何かやっているようだ。


 行ってみると、空き地に妙な物が動いていた。木でできた小さな台車が二台あり、それがゆっくり動いている。簡素だが、まるでゴーカートだ。子供が自分でハンドルを握っている。


 車を動かしているのは、間違いなくそこにいた進藤好道だ。


「進藤」

「おう、キング」

「手を離しても動かせるのか?」


 進藤のスキル「中免小僧」は車輪がついた物を動かせる力だ。だが、離れても動かせるとは知らなかった。


「やっとな、コツがわかった。だけど、スピードはあんなもんよ」


 たしかにゆっくりだ。ゴーカートというより、パンダの乗り物に近い。それでも子供に人気のようで、順番を待っている子がたくさんいた。


「キング、クックー」

「キング、クックー」


 聞き覚えのある声に振り向いた。双子のフルレとイルレだ。


「これ、グローエン殿にもらいなさい。人のをもらわない!」


 うしろから叱ったのは父親だ。ザウルさんとか言ったかな。


「クックー!」

「クックー!」

「こりゃ!」


 おれは父親に「まあまあ」とジェスチャーし、持っていたクッキーをわたした。


 しかし、今日の二人が可愛い! 頭に光る草の冠をしている。まるでティアラだ。


「それ、どこでもらったの?」

「あっち」

「あっち」


 双子は、大通りから少し外れた暗がりを指した。たしかに人が集まっている。


 近くに行くと、わかった。暗がりの地面に店を開いているのは大工の茂木あつしだ。なぜかダミ声で露天の真似をしている。


「はい、光るブレスレット、ネックレスもあるよ」


 まんま、祭りによくいる、あやしいオッサンだ。


 広げた布の上には、クローバーのような草を編んだブレスレット、花びらにヒモをつけたネックレスなどが並んでいた。どれも鈍く光っている。これは沼田睦美の照明スキルだな。


「茂木、沼田は?」


 二人の合作に見えるが、沼田の姿がない。と思ったら茂木のうしろで寝ていた。おれの声に上半身を起こす。


「調子に乗って、作りすぎちゃった。ちょっとフラフラ」


 あはは。おれも調練でやったことがあるが、スキルは使いすぎると身体がフラフラになる。


「いいよ、寝てて。店番は茂木がするさ。なあ茂木?」

「はいよー、さあ、安いよー、どれでも葉っぱ一枚だよー」


 だめだこりゃ。ダミ声オッサンのキャラで行くつもりらしい。


 布の上のアクセサリーを見ていると、木で彫った物もいくつかあった。


「むぅ、これはカッコイイでござる」


 ゲスオが手に取ったのは、小さな葉っぱのペンダント。ペンダントと言っても木彫りの小さな葉っぱに紐をつけただけの物だ。葉はハートの形に似ていて、この里の者ならなんの葉っぱか知っている。菩提樹だ。


「それ、いいな、革紐でもつけて里のみんなでつけたら」

「おお、里の通行手形、みたいなもんでござるな」


 菩提樹のペンダントは四つしかなった。ゲスオとプリンスが一枚づつ、おれは二枚もらった。フルレとイルレにあげよう。


「茂木、これ、みんなに作れないか?」

「無茶言うよー、百超えるよー、バカだよー」


 ダミ声で言われた。たしかに、数が多いな。


「一人で戦うのもバカだよー」


 茂木の顔を見た。ちょっと怒ってるみたいだ。


「でもよ茂木」


 言い返そうとしたら、ほかの客が来たのでやめる。腰を上げて次に行こうとしたら、うしろから声が聞こえた。


「暇見てやるよー、工作班で作るよー」


 作ってくれるみたいだ。

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