第26-4話 有馬和樹 「宿命か因縁か」

 菩提樹め、ぜったい狙ってたわ。


 それより、なんだか気分が晴れ晴れした。


 おっと、良いことを思いついたぜ。


「よっし! 今日は、前にできなかった収穫祭にしようぜ。どかっと食って、どかっと飲んで」


 また歓声が広がった。森の民はさっそく準備にと家に戻っていく。調理班も、広場の横にある調理場へと向かった。


 おれの周りには戦闘班と頭脳班が残る。


「もう、これから冬で倹約しなきゃいけないのに……」


 姫野がつぶやいた。ああ、そうか。勢いで宴会を決めちゃったわ。


「悪い姫野。ちょっと釘さしとくか?」

「やよ。ケチった祭りもつまんない」


 姫野が笑った。機嫌が直ったようだ。


「まあ、物流がここを通るなら、薄く利益を乗せて小銭をかき集めれるし、どうにかなるわ」


 おお、商魂たくましいとは、この事だ。


 おれは残りの懸念を話した。


「みんなで戦えば、いずれ、ここが狙われるぞ」

「わかってる。それをかわすために、外で目を引きたいんでしょ?」


 姫野が言った。ちぇ。そこまで読まれてるか。


 ハビスゲアルは手短に政治の内情を説明した。頭脳班の三人以外はおどろいている。


「黒幕がわからぬとは。難儀だな」

「そうですね。王、一人ぐらいであれば、暗殺の芽も見えてきますが」

「そうよな」


 師匠二人は、なにやら物騒な話をしている。


「姫野たちは、おどろかないんだな」


 頭脳班三人は顔を合わせた。


「グローエンのおじいちゃんや、カラササヤさんを始め、森の民から情報は集めてたの」


 そんな事してたのか。ちょっと反省。おれはおさと呼ばれながら、体を鍛えてばかりだ。


「そうすると、国と教会の関係がかなり、いびつで。可能性として低いけど、真の黒幕みたいなのはいるかもねって話はしてた」


 感心を通り越してあきれる。誰が呼んだか頭脳班。その名前はダテじゃない。


「その黒幕を倒す策はあるか?」

「……ある」


 あるんかい! おれは信じられない、といった顔で周りを見ると、プリンスやジャムさんも同じ顔だった。


「すっごく回りくどい面倒な策もあれば、簡単な策も、ないことはない」

「簡単な策って何?」

「王都襲撃」


 おれも戦闘班も息を飲む。キザな伯爵は口笛を吹いた。


「立ち直れないぐらい叩き潰すと、さすがに黒幕は出てくると思うわ」


 なるほど。国が盗られそうになれば、出ざるをえないか。


「でも、王都の兵士は調べたところ約10万。さすがに机上の空論よね。ハビスゲアルさん」


 ハビじい、笑うかと思いきや、真剣な顔で考えに沈んでいる。


「行けるやも、しれません」

「ブルータス、お前もか」

「はっ?」

「ごめん、一度言ってみたかっただけ。ハビじいまで、びっくり発言するから」


 王都の元司教は顔を上げた。


「各自の持つ独特な力、そして原住民の方々。それがまとまるのであれば……」


 ハビスゲアルは慎重に言葉を探しているようだ。


「王都の兵士は年に一度、長期休暇がございます。その時、王都に残る兵士は1万弱。警備は三交代です。つまり、実際の兵は3千ほど」


 おれは聞きたいことがあったが、先に姫野に聞かれた。


「非番の者も、敵が攻めてきたら戦闘するでしょ。それに休暇といっても王都に残る兵士も大勢でしょうし」


 そう、それだ。実際には2万、3万ぐらいの兵力ではないか? そう思ったがハビスゲアルは首を振った。


「ここの戦闘班の方と同じに考えてはいけませぬ。考えてみてくだされ。休みの日に収集がかかる。これに急いで馳せ参じると?」


 ……あっ、なるほど。おれらで言う学校、またはバイトか。休みに日に来いという。そうだな、何かに理由をつけて行かない、または、遅れて行くか。


 いや、それよりひどいかも。なんせ戦いになれば命が危険なんだ。下の人間にとっては戦わないのが一番安全。


「……まったく芽がない、というわけでも、なさそうだな」


 プリンスがつぶやいた。お前もそう思うか。


「ハビじい、それで、その長期休暇っていつ?」


 ハビスゲアルは、みんなの顔を見つめた。おれらだけじゃない。ジャムさんやヴァゼル伯爵も。


「年に一度、王都で開かれる祭りの時期です」

「ハビじい、祭りって、まさか……」


 ハビスゲアルはうなずいた。


「そう、召喚祭です」


 因縁。その言葉が正しいか。その場にいた戦闘班と頭脳班の面々は、思わず唸らずにはいられなかった。

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