3年F組クラス転移 帝国VS28人のユニークスキル。剣と魔法の世界に召喚された高校生はざまぁかましてエルフの廃墟でのんびりスローライフのつもりが人類の危機に立ち上がり団結チートで国を相手に無双する
第26-3話 有馬和樹 「落ちるなら、みんなで」
第26-3話 有馬和樹 「落ちるなら、みんなで」
「ほかには、いくらか財産がありますか?」
姫野がハビスゲアルに聞いた。
「捕まれば、異端審問にかけられますゆえ、着の身着のまま逃げ出しました。王都の財産は、すでに教会に没収されているかと」
姫野があきれたように腕を組んだ。
「資金もなく組織作りなんて、よくもまあ……」
ハビじい、肩をすぼめて今にも消えそうだ。
「姫野、そんなに怒るなよ。怒るっつか、今日は、なんだかキレてるぞ」
くわっと姫野が、おれを睨んだ。ママ怖え。
「キレるっつの! ドクやゲスオはこれを予想したけど、わたしはないと思ってた」
「えーと、おれが出ていくこと?」
「そう! 民を置いていく王がどこにいるっつうの!」
おれは言い返せないから、頬をふくらました。姫野の言うことは、もっともだ。
「キング」
肩を叩かれた。誰かと思えばプリンスだ。
「まあ、あきらめろ。お前が考える以上に、頭脳班は作戦を練ってたようだ。勝てるわけないだろ」
プリンスの言うことも、もっともだ。いや、でもね、一晩中ハビじいと計画練ったんだよ。今後のことをあれやこれや。
「プリンス、ひょっとして、こうなるの予想してた?」
「してたよ」
「言えよ!」
「まあ、盛り上がってるとこにケチつけるのもな」
にやっと笑う。くぅ。この里をプリンスに背負わせる、その事に悩んだおれの気遣いを返してくれ!
プリンスはハビスゲアルに微笑んだ。
「ハビスゲアルさん、このように我らが王を引き抜くのは、無理かと。こちらに入っていただくほうが早い」
ハビじいは顔を上げた。ひどく、おどろいている。
「吾輩を迎えてくれるのですか? ここに召喚した張本人ですぞ!」
「ハビじい、そこはまあ……」
「うっさい、ボケキング。落ちた張本人も黙ってて!」
「……へい」
今日のおれ、散々だ。
姫野は考え込んで、大きく息を吐いた。
「かなり複雑な気分なの。もちろん、召喚なんて、されたくなかったけど」
そう話し始めたが、また口をつぐんで考え込んだ。それから立ち上がり、うろうろ歩く。
「なんて言うかな。もう一度、あの状況になったら、同じことしちゃうんじゃないかなって……」
意外な言葉に、おれはおどろいた。おれを最初につかんだのは、姫野だ。
「別に、キングに惚れてるわけじゃないわよ」
「お、おう。それはわかってるよ」
なんだ? 視界の端の黒宮和夏が、地団駄を踏んだ気がする。姫野はまたうつむいて、うろうろと歩いた。言葉を探しているようだ。
そして立ち止まった。思いついたようだ。
「そうね、あの時、もし向こうに残されていたら……」
姫野の言葉にクラスのみんなが、はっとなった。姫野が言葉を続ける。
「何人かが落ちて、何人かが残ったとする。向こうに残った場合、けっこう、キツイ」
セレイナが、うなずいて口を開いた。
「わかる。残った方は悩むわ。どうして助けられなかったのか。今はどうしているのか」
「それって……」
友松あやが横から入った。
「それって、けっこう地獄よ。一生、悔やみ続ける人生になるかも!」
友松あやの言葉に、姫野がうなずく。
「なるほどな。全員が落ちるって、ある意味で正解やったんか」
同調したのはコウ、根岸光平だ。
「コウは、こっちの世界のほうがいいだろ」
隣にいたコウの親友、山田卓司が言った。
「あほう、タク、んなワケあるかい」
「コウの転校理由は?」
「借金取りに追われて……あっ、ホンマや」
みんながくすっと笑った。
「なるほどねぇ。そうなると、キング以外は自分の意志で来た、とも言えらあな」
大工の茂木あつしが「べらんめい」といった感じで鼻をすすった。
「そうなの。もちろん向こうの家族は可愛そうなんだけど、なんかもう、しょうがないかなって感じに、わたしは最近、思い始めてる」
姫野の言葉に、クラスのみんながうなずいた。
みんな、そんな風に考えていたのか。
おれは27人は自分のせいだと思っていた。だからプリンスに「みんなを守りたい」と最初の夜に相談した。
……いや、そりゃ違うのか。おれが守るってものではないのか。みんな互いに守って、そして守られるのか。
おれが考えにふけっていた横で、当の召喚者は顔をくしゃくしゃにしていた。イスから立ち上がる。
「許されることではありませんが、このハビスゲアル、残りの短い人生を皆様の
そして深々と頭を下げた。どうでもいいけど、後頭部はどうやって剃っているんだろう。
「ハビじい!」
「はっ、キング殿」
「おれが言うのもなんだけどな、過ぎたこと、気にすんな! 友達だし」
「キ、キング殿、前も申しましたが何でも『友達』で解決するのは……」
姫野が思いついたように言った。
「いいんじゃない? 同じ里、クラスメートみたいなもんでしょ」
クラスメートか。おれも思いついて、立ち上がった。
「よし! おれは決めたぞ。今、この里にいる全員、子供から、じいちゃん、ばあちゃんまで。今後おれは『クラスメート』と呼ぶ」
いつの間にか、3年F組の輪の外には人が集まっていた。その人たちから、どっと歓声が沸き起こる。ありゃ、そんなウケる事だったか。
カラササヤさんが、涙をこぼしながら前に出た。
「キング殿! 仲間と認めていただき、誠に感無量でございます!」
あっ、そうか。おれらが先にいたから、あとで来た森の民は間借りしてるような気分だったのか。これはいかんな。
「みんな、クラスメート。この里が自分の家な! 好きに使ってくれ!」
おおっ! と歓声と拍手が沸き起こる。
「クラメート!」
「クラメート!」
ちっこい双子、同時に間違ってる。もう一つ、前から気になっていた事があったので、それもついでに言ってみる。
「みんな『エルフの隠れ里』って呼ぶのやめないか?」
みんながうなずく。同じこと思ってたんだな。
「じゃあ、決定。たぶん思ってること同じだな。今日からここは『菩提樹の里』と呼ぼう」
おれがそう言った瞬間、菩提樹に満開の白い花が咲いた。風に吹かれたように花吹雪も散る。精霊の幻影だ。
今日一番の大歓声が里に響きわたる。
ぬうっと精霊が出てきた。
「菩提樹、ぜったい出番狙ってただろ!」
「なにを、無礼な!」
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