第25-9話 姫野美姫 「わたしの決意」

 ヴァゼル伯爵に送ってもらい、樹の上から下りた。


 その足で頭脳班の部屋へ向かう。


 そうだ。誰一人欠けることがないように。そこを目指そう。わたしこそ、それを目指して頭を使わないといけない。


 小屋の扉を開けると、薄暗いことにおどろいた。普段なら本を読む部屋なので、ライトは多くある。よく見ると、ライトのいくつかは布をかけてさえぎっていた。


「遅かったね」


 薄暗い部屋にいたのは、ドクとゲスオだ。


「ようやく、軍師のお出ましか」


 光の当たらないベッドの暗がりにいたのは、幻影のスキルを持つ渡辺裕翔くん。


 なぜ渡辺くんが? わたしは尋ねるようにドクを見た。


「状況が急激に変わりつつあるよね。作戦会議が必要かと思って。その手伝いに二人を呼んでおいた」


 二人? 聞こうと思ったらドアが開いて男子が一人、入ってきた。水差しを持っているので、水を汲みに出てたみたい。


「渡辺くんと駒沢くんは、僕の予想だと、こういう話に向いてると思う」


 ドクの言葉に、ゲスオがうなずいた。


「渡辺殿は歴史造形が深く、駒沢殿は、きっすいのゲーマー。攻略法を見つける眼力は、ずば抜けておるでござるよ」


 ゲスオがそう言って眼鏡を上げた。


「ふっ、そう言って、俺に勝つのがゲスオだけどな」


 駒沢遊太も眼鏡を上げた。おう、なんだかゲスオと同じ人種の匂い。


「んじゃ、しょかつりょう、よろしく」


 渡辺裕翔は三国志の「孔明こうめい」ではなく「諸葛亮」と呼んだ。歴史好きはこういう言い方をする人が多い。


「今回に限っては、わたしは荀攸じゅんゆうでいたいわね」

「なるほど、負けた劉備じゃなく、勝った曹操の軍師ってわけか」


 わたしは表計算のスキルを出した。壁一面になるように大きくする。実はわたしのスキルも進化していた。使用頻度で言えば、クラスで一番かもしれない。


「共有!」


 指をパチン! と鳴らすと、表計算の画面が空中に浮かび上がった。前は自分しか見えなかったが、今では人に見せることができる。


「うわぁ、細かいや」


 ドクくんが数字を見て言った。最初の画面は食料の計算で使う画面だ。


「して、姫野軍師、我らブレーンのやる事はいかに?」


 ゲスオの言葉にうなずいた。表の何も書いてないページを開く。


「ありとあらゆる可能性の予測、そしてその対処を」


 渡辺くんが後ろでつぶやいた。


「それはすごい数になるな。何百とか」

「何千、何万でもいい」

「何万……」


 わたしは振り返り、四人を見つめた。


「クラス28人、それにジャムパパ、ヴァゼル伯爵、里のみんな。誰か一人でも欠けないように、知恵を尽くしたいの。わたしは、考えることしかできないから」


 四人はしばらく空白の表を眺めていたが、ゆっくりとうなずいた。


「わかった。やろう」

「攻略はまかしとけ!」

「さすが姫野さん」

「我が力、見せようぞ」


 若干一名の不安は置いておくが、わたしは軍師ではないなと思う。軍師のように一人でやるのは無理だ。でも、頭脳班は一人じゃない。


 団結したらチートだぜ。


 わたしは、いまだ見えぬこれからの敵に、そう胸を張りたい気持ちが沸き起こっていた。

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