3年F組クラス転移 帝国VS28人のユニークスキル。剣と魔法の世界に召喚された高校生はざまぁかましてエルフの廃墟でのんびりスローライフのつもりが人類の危機に立ち上がり団結チートで国を相手に無双する
第24-7話 飯塚清士郎 「戦いの後はごちそう」
第24-7話 飯塚清士郎 「戦いの後はごちそう」
「今日はね、もう一つ目玉があるの」
テーブルの上にドン! ともう一つ来たのは、大きな釜だった。
匂いが麦ではない。もしや?
「ウルパの村からもらったの。そう、お米よ」
これには男子だけでなく、女子からも歓声が上がる。
「お米は、こっちの部族では『タンタ』って言って、私たちの知ってるとこで言うとインディカ米に近いんだけど、やっぱりカレーには米ね」
ゴカパナじいさんは喝采と拍手をもらい照れていた。なるほど、お礼を兼ねて食事に呼んでいたのか。
テーブルに木の皿とスプーンも置かれた。我先にと、クラスの連中が群がる。
「ハビスゲアルさん、甘口と辛口、どっちがいいです?」
異世界の司教は考え込んだ。
「そのカレーというものが初めてでして。どうしたものか」
「ハビじい、男は辛口だ」
横からキングが言う。
「キング、言葉を返すが俺は甘口を食うぞ」
「くぅー、軟弱」
「ふむ。では物は試しで辛口をいただきとうございます」
「わかりました。取ってきます」
俺は立ち上がった。ハビスゲアルは72番目の司教と言っていた。一番下だが、この時代の司教だ。自分で配膳することはないだろう。
「いえ、皆様と同じように自身で注ぎますゆえ」
そう言って立ち上がる。無理に合わせなくても、と思ったが違った。ご飯を注いでカレーをかける仕草は慣れている。身の回りのことは自分でするタイプか?
思えば、この老人にあまり嫌悪感がない理由がわかった。服装が地味だ。権力者なら、もっと派手でいい。腕輪や首飾りなどの装飾品もしていなかった。かえってゴカパナ村長のほうが、じゃらじゃらだ。
自分のゴザに戻り、カレーを一口。思わず目を閉じた。インディカ米に近いらしいが、それでも米だ。懐かしい感触だった。
隣のハビスゲアルは、ご飯をまず食べた。そのあとにルーを食べ、飛び上がるように目をむく。
「これは……なかなか刺激のある食べ物ですな」
「よく混ぜたほうがいいです。もう、ぐっちゃぐちゃに」
元の世界ではマナーが悪いとも言われるが、よく混ぜたほうが美味い、と俺は思っている。
ハビスゲアルは、ご飯とルーを混ぜて一口食べた。噛み締めてうなずく。そのあとにもう一口。
「刺激はあるのですが、妙に後を引きますな」
そう言って、また一口食べた。大丈夫のようだ。俺も自分のカレーに取りかかる。
「
セレイナが大皿を持って周ってきた。大皿の中にはピクルスを刻んだようなものと、朝に出たイチジクの甘露煮があった。
「ハビスゲアルさん、ちょっとマイルドにしましょうか?」
俺の言った意味はわからないだろうが、ハビスゲアルは自分のカレーを差し出した。ピクルスもイチジクも多めに入れる。
「これで、また混ぜてください」
そう説明して、自分もセレイナからピクルスをもらう。
「ありがと」
「うん? ピクルスをもらったのは俺だ」
「助けてくれて」
「ああ、そっちか。結果として、いい判断だったと思うぞ」
「そう言ってもらうと、気が楽になるわ。ごめんね」
謝ることではない。いい判断だ。あの飛び出しで、みんなが助かった。そう説明しようとしたら、セレイナはもういなかった。
「うぉぉぉぉ!
……なんか、騒がしいやつの声が聞こえる。
俺はたぶん人の悪い笑みを浮かべ、その声の主は放っておいた。そんなに見たいのなら、あとで死体と対面させてやろう。ゲスオ、お前が思ってるのと違うからな。
さて、自分のカレーに専念することにした。美味い。これにも思わず笑みがこぼれる。調理班のリーダー、喜多絵麻に甘口を作ってくれと言ったのは俺だからだ。
まったく、うちのクラスには芸達者なやつが多い。俺とキングだけで異世界に落ちてたらどうなったか。それを考えると背筋が寒くなり、俺はカレーを味わうことだけを考えた。
気がつくと、隣のハビスゲアルは半分ほど食べていた。口を手で扇いでいる。イチジクを入れても辛いらしい。
そこへノロさんが、カップと水を持ってきた。今度は陶器のカップだった。飲んでやっぱり。水もカップも冷えている。湧き水で冷やしておいたのだろう。
「よく気がつく御仁ですな。古くからの使いで?」
ハビスゲアルは、水を飲みながらノロさんの後ろ姿を見ていた。そうか、こっちの世界だと下働きに見えるのか。
「いえ、ノロさんは友達です。28人、全部そうです」
「ほう、あの全てが」
ハビスゲアルは召喚の時を思い出したのか、クラスの面々に目をやった。
それで思い出した! 俺は近くにいた伯爵のほうに身体を向ける。
「伯爵」
「なんでしょう」
「さっきのあれ、どうやったんです?」
「さっき?」
「キングのスキルを使いました」
「あっ! そう、それそれ!」
キングも思い出したようだ。
「キング殿の能力を借りました」
「いや、そこがおかしい。スキルは一人に一つ。そうですよね?」
最後はハビスゲアルに向けて言った。
「いかにも。この世界の
「ハビじい、それ自分で言ったじゃん?」
「キング殿に言いましたか?」
「いや、ゲスオに言ってたって。ほんっとに覚え悪いな」
俺は苦笑いをして、ヴァゼル伯爵に向き直った。
「やはり、スキルは一人に一つ。伯爵がスキルを使えるのがわかりません」
伯爵は特に表情を変えることなく、カレーをゴザの上に置いた。
「あれは、プリンス殿の言う『スキル』というものではありません。言わば呪いです」
呪い? あの黒い霧のような物だろうか。
「なかなか珍しい魔術でして。まず主従の呪いが必要です。その上で
話がわからなかった。俺もカレーを下に置く。
「その主従の呪いってなんです?」
「契約のようなものですな。主の能力が使える代わりに、主が死ねと言えば即死します」
覚えがあった。あの牢屋。あれは主従の呪いだったのか!
「おい、プリンス」
キングが立ち上がった。言いたいことはわかっている。これはやってはいけない。
「伯爵、その呪いは無効だ。すぐ切ってくれ」
キングがあわてて言う。俺もうなずいた。
「そこまでとは考えていませんでした。申し訳ない。俺の言葉は取り消します」
俺とキングの雰囲気を察したのか、みんなが手を止めて俺らを見た。
「伯爵」
「さて、かなり
本当だろうか。この人の感情は普段から読みにくい。
「ヴァゼルゲビナード殿は、キング殿と同じ力を持っていると考えてよろしいのですか?」
横から声を発したのはカラササヤさんだ。そうか。キングを守る立場としては、危険に感じるのか。
「とんでもない、カラササヤ殿。主の力が十とすれば、しもべは一か二、その程度のもの。そして、スキルではないのでゲスオ殿の補助も効きません」
「では、キング殿に歯向かうことはないと?」
ヴァゼル伯爵は微笑んでうなずいた。
「カラササヤさん」
「はい、キング殿」
「ちょっと黙っててくれ」
「はっ!」
キングが伯爵を見つめた。ちょっと、いや、かなり怒っている。カラササヤさんにじゃない。伯爵にでもない。
静まり返った場に、ごとり、と鍋が動く音がして注目した。ゲンタがカレーをおかわりしている。
「さて、うっかり見張りを立てておりませんでしたな。私が行って参りましょう」
「伯爵!」
ヴァゼル伯爵は翼を羽ばたかせ飛んでいった。
「ごめん、邪魔するつもりじゃ……」
俺は思わず、小さく笑った。
「ゲンタって、甘口? 辛口?」
「ぼくは、ええと、甘、辛、甘、辛、と来たから、次は甘口かな」
……忘れてた。元相撲部だったわ。
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