第22-4話 高島瀬玲奈 「ヘアカット」

 夜は収穫祭をする予定だったが、今日は解散。


 みんな、色々あってグッタリ疲れている。


 アタシも自分の家に帰った。これが元の世界なら「一人暮らしの暗い部屋に帰る」となるのだが、すでに部屋は明るい。


 明るさの理由はライトだ。沼田ぬまた睦美むつみちゃんの照明スキルで作ってもらった。


 アタシのライトは、小さな鉢に植えた植物だ。ナンテンのような赤い小さな実をつけている。


 ベッドに座り、植物のランプに手をかざした。調理班なので、手がガサガサ。


 昔は会社のパンフレットなどのモデルもやっていたので、手入れをしてツルツルにしていた。それが今ではもう。


 いや、そんな事を言い出せば、アタシよりしんどい人はいくらでもいる。


 友松あやちゃんは、掃除スキルで全員を殺菌したので、疲労困憊。兵士と戦ったキングも、きっと疲れているだろう。


 それに比べ、アタシは何の役に立っているのだろう?


 調理班だけど、そこそこ料理ができるだけ。あとは、たまに歌ってみんなを励ますだけ。


 ……これでは、ダメな気がする。


「気を遣う」とかではなく、このままの自分ではダメな気がする。チヤホヤされていた子供のころと一緒だ。


 思い定めると、今すぐ動きたくなった。


 立ち上がり、木の上の家から降りた。


 関根瑠美子ちゃんの家に向かう。


「ルミちゃん」


 下から声をかけてみた。


「あれ、セレイナ。上がって上がって!」


 要件を伝えに来ただけだけど、上がってと言われたら断る理由もない。


 家に上がると、ほかにも女子三人。設備班の面々が揃っていた。


「お茶、セレイナもいる?」


 アタシはうなずいて、お茶をもらった。


 ルミちゃんは、部屋にいくつもカップを用意しているみたいだ。陶器のポットもある。


「みんなすぐには寝れないから。お茶してたの」


 その気持ちは、すごいよくわかる。今日はたくさんの死体を見た。


「セレイナのランプ、かっこいんだよ。赤い実がついた植木で」


 そう言ったのはランプを点けてくれる沼田睦美ちゃんだ。


「わぁ、かっこいい。ミナミなんだっけ?」

「あたし? ドアノブ」

「なにそれ?」

「クーラー部屋に取り付けるつもりだったけど、要らなくなったっていうから、もらった」

「ダサ……」

「んなら、ワカは何よ!」

「うち、石」

「変わんないっつの!」

「痛っ!」

「ちょっと二人! お茶こぼれてる!」


 じゃれあっているのは、黒宮和夏、門馬みな実の二人だ。


「あの……」

「ああ、ごめんごめん、用事だった?」

「髪を切ってもらおうと思って」


 ルミちゃんは美容師を目指していた。元の世界にいた時から、同級生でルミちゃんに切ってもらっていた子は多い。


「セレイナ、今なんて?」

「うん。髪切ってもらえないかと思って。明日とか、明後日に」


 関根瑠美子ちゃんが動かなくなった。


「ルミちゃん?」

「今日、今日なの?」

「ううん、明日か明後日でいいの」

「こんな、こんな日に叶うの?」

「ルミちゃん?」


 ぷるぷる震えている。何か悪いこと言ったかな。


「来たぁぁぁぁぁぁ!」


 とつぜん絶叫した!


「でもダメ! 道具が足りない。いや、それは言い訳。道具で腕が上がるわけでもない。でも……」


 ぶつぶつ独り言を言い始めた。


「ル、ルミちゃん?」

「あはは、落ち着くまで待ってあげて」

「睦美ちゃん、これって」

「セレイナの髪切るの、ルミは夢だったから。今日は色々ありすぎて、頭が混乱してるわ」

「ええっ? アタシの髪なら言ってくれれば、いつでも切ってもらうのに」


「「「無理!」」」


 三人が同時に言った。


「セレイナの髪なんて」

「怖っ!」

「学校時代は無理ね」


 学校に通ってたころだと「あの髪切ったの誰よ?」と言われかねないので無理らしい。


「そんな! 考えすぎよ」

「セレイナ、世間知らずだから」

「みんな陰で言うよ。ミス中津高校」

「いや、ミス中津区」

「うんにゃ、ミス日本」

「待って待って!」


 三人を止めていると、ひとり放ったらかしだったルミちゃんが深呼吸して、ゆっくりうなずいた。


「やるわ! 私、やってみせる」

「わー、応援しちゃう!」

「うち、クーラー部屋に暖房入れてくる!」

「この前、大きい姿鏡を入れといて良かったねー!」


 ……えっ? そんな大ごとになる?


 五人でクーラー部屋に向かっていると、遠藤ももちゃんに会った。戦闘班だから、見張りをしてたんだろう。


「あれれ、その五人って珍しいね。どっか行くの?」

「ももちゃん! 聞いて。私、セレイナの髪を切るの」

「ふぇ、それは責任重大だなぁ。セレイナ、どのぐらい切るの? 5センチ? 10センチ?」

「えーと、ショートにしようと思って」


「「「「「はぁ?」」」」」


 五人の声が重なった。


「私、私がセレイナの髪をショ、ショートに」

「ルミちゃん! しっかり!」

「ちぃ、なんて日だ! スキル、モシモシ!」


 遠藤ももちゃんが、耳に手を当てた。


『ヒナっち? 緊急事態だわ。セレイナが……』



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