第22-3話 高島瀬玲奈 「森の民について」

 助けた五人を連れて、隠れ里に帰った。


 念の為、里に入る前にみんながあやちゃんの殺菌? というのかしら。掃除スキルをかけてから里に入る。


 入り口の洞窟にいたケルベロスが、五人を見て吠える。飼い主の門馬みな実ちゃんがなだめると、おとなしくなった。


 五人の顔が引きつっている。そりゃそうよね、ケルベロスだもん。


 とりあえず、五人を連れて広場に腰を下ろした。


「ここは……」


 さきほどのカラササヤと名乗った男性が、あたりを見回しておどろいていた。


 日が暮れてきたので、ライトのスキルを持つ沼田睦美ちゃんが街灯を灯していく。街灯と言っても木の杭に台座をつけ、石を乗っけただけの物だ。


「ここはエルフの隠れ里だったと聞く。今はおれたちが勝手に使っているんだ」


 キングが答えた。カラササヤが周りのアタシたちを見る。ジャムパパとヴァゼル伯爵に目を止めた。


「おれたちは、この世界に召喚されてきたヨソモノだ。ジャムさんと伯爵もそう。悪いが、ここを口外するなら殺すから」


 キングの口から「殺す」という言葉が出て、アタシは身体がビクッとなる。


 カラササヤが居住まいを正した。


「命を助けてもらったあげく裏切ることなどあろうか。それに我らは古くから住む森の民。帝国に恨みこそあれ、関係はない」


 聞けば、アタシたちが逃げた「神聖アルフレダ帝国」は百年ほど前に移住者が作った国だそう。


 元々はカラササヤさんたちのような、小さな村や部族が点在する土地だったらしい。


「でも兵士が」


 キングの言葉にカラササヤさんがうなずいた。


「ひと月前です。原因不明の奇病が始まったのは。薬草が効かないので、王都の神父に頼ったのですが回復魔法も効かず……」


 花森千香ちゃんが思い出したように立ち上がった。


「そう! 癒やしのスキルが効かなかった」

「んー、それは多分……」


 ぼそっとつぶやいたドクくんに、みんなの目が集まった。


「ドク、黙るなよ」

「だって、みんなが見るから」


 ドクくん、そんなに恥ずかしがり屋なのか。人から見られるのが普通のアタシからすると、かなり新鮮。


「その……回復系の魔法に対して耐性があるんだと思う」

「耐性?」

「ほら、僕らの世界で言うと抗生物質が効かない菌とか、あるでしょ。あれと同じだよ」


 ドクくんは普通に説明したが、みんなの顔色が変わった。ここは異世界だ。キングもそう思ったのか、続けてドクくんに聞いた。


「それ、やばいんじゃね? この世界、ワクチンとかなさそう」

「うん。昔のローマで350万人だったかな。人工の半分ぐらいは消えると思う」

「まじか!」

「まあ、なんとかするよ」

「ああ、頼むぜドク」


 なんとかするんかい! とみんなは心の中でツッコんだと思う。


 ゲスオが以前「ドクくんはリアル・チート」そう言ってた意味が、今ならよくわかる。


「よし! 腹減ったな。メシにするか?」


 キングの言葉にみんなが目を合わせた。あんな事があった後に、食事?


「キング、みんなは多分、要らないから」


 ヒメちゃんの言葉に、みんながうなずく。


 食欲もないし、アタシを含め、調理班はハンバーグを焼けるだろうか? 死体の焼けた匂いは鼻の奥にこびりついている。今、肉なんか焼いたら吐きそうだ。


「食欲がない時は、これじゃ」


 元村長のおじいちゃんと、おばあちゃんがクッキーのような物を持ってきた。大皿に山ほど積んである。


 あれは、今日の昼に二人が作っていた物だ。菩提樹ぼだいじゅの実で作ったんだっけ。


 元いた世界だと、菩提樹の実は食べれなかったと思うけど、ここの菩提樹は違うらしい。


 とりあえず一枚もらう。一枚と言っても、かなり大きい。丸くて分厚いクッキーは、アタシの手のひらと同じぐらいの大きさだ。


「美味しい!」

「うま!」


 かじった人が口々に言う。私も食べてみた。これは美味しい。味は松の実に近い。木の実に油分が多いのか、しっとりしていた。


「これは、アマラウタ!」


 カラササヤが菩提樹クッキーを手にして叫んだ。


 おじいちゃんがカラササヤに歩み寄った。


「ティワカナ族でしたな。わしらの村は親父の代で帝国に帰属しましたが、元はチャラサニ族」

「チャラサニ! 西の森の!」


 おじんちゃんとおばあちゃん、それにティワカナ族の五人が手を取り合って話し始めた。


「どうじゃ、わらわの実の味は」


 ぬうっと精霊さんが現れた。


「お前、みんなが食べるの待ってただろ。ドヤ顔するために」

「なっ! なにを言う、無礼な!」

「いや、でも、お前の木の実って、うまいのな」

「むっ、むふふ」


 キングと精霊さんがじゃれ合っている。


「ア、アマラウタ様……」


 ティワカナ族の五人が地面に伏した。


「むむ?」


 精霊が首をひねった。おじいちゃんが精霊の前に歩み出る。


「菩提樹様、ティワカナ族をご存知ですか?」

「おお、存じておる。あの村にも、わらわの樹が一本残っておるのでな。かなり前にクワキリという口寄せができる者がおっての」

「そ、それは、わたくしの祖父でございます」

「ほう、そうであったか」

「まさか、お姿を拝見できるとは!」

「ふむ、村の者は元気であるか?」


 聞かれたティワカナ族の五人は、互いを見合った。


「菩提樹、さっきの話を聞いてなかったのかよ。疫病で全滅だっての」

「ほう、難儀な。ならば、ここに住むがよい」

「お前、勝手に決めんなよ。って、おれらの土地でもねえか。どうする? カラササヤさん」


 カラササヤさん、目をぱちくりさせている。キング、それスピード早すぎて頭がついていけないよ。


 カラササヤさんたちは、しばし呆然としていたが、お互いを見合ってうなずいた。


「アマラウタ様のお膝元、そして命の恩、少しでも恩返しさせていただければ!」


 五人はもう一度、キングとその横の精霊さんに向かって頭を下げた。


「いやいや、おれらはいいって。っつうか、菩提樹、すげえやつだったんだな」

「キングよ、いまごろか!」

「だってよ、お前がいきなり花森に口寄せするから」


 カラササヤさんが驚愕の顔を上げた。


「こ、ここにも口寄せができる者がおるのですか!」

「ああ、花森がな」


 キングが花森千香ちゃんを指差した。


「おお! アマラウタ様だけでなく、お使い様まで!」


 五人が花ちゃんに頭を下げた。花ちゃんが困っている。


「ありゃ? 口寄せって、そんなにすごいの?」


 カラササヤさんが胸を張った。


「我が祖父がゆいいつ。ひとつの村で百年に一人出るか出ないか、と言い伝えられております」

「まじか! じゃあ、花森はレアか」

「キング。わらわと心を通わすことのできる人間が、どれほど貴重か。それを、お主は……」


 そうだった。あの時、花ちゃんが口寄せしているのを「どうでもいい」って感じで一蹴した。


「まいったなぁ。おれも、お詫びにウンコでも奉納すっか?」


「「「「「それはダメ!」」」」」


 女子一同の声が重なった。


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