第6-3話 ジャムザウール 「脱獄」

「私、私も連れて行ってくれたまえ!」


 声がしたのは、俺の向かいにある牢屋だ。


 おや? 見た顔だ。あの翼を持った男か。


 見れば男の翼は折れている。あのとき、この男は逃げようと空へ飛び、結界にぶつかり落ちた。あの墜落で、あちこち怪我をしたようだ。


 キングが思考する顔を見せた。だが害がないと思ったのか、男の柵の前に立った。


「待てよ、キング」


 横から入ったのはプリンスだ。


「助ける義理はない。こいつは、俺らを放って逃げたやつだ。ジャム殿とは違う」

「まあそうだけど、何もこんなとこで死ななくても、いいと思うわ。鳥って空の下で死ぬべきじゃん?」


 キングの申す言葉の意味は理解できなかった。だが翼の男は喜びの顔を見せた。


「おお、我が種族の矜持きょうじを理解する御仁ごじん! ひとたびの無礼、この身にかえましても」


 それを聞いたプリンスが、にやっと笑った。


「言ったな?」

「はっ?」

「大人なら、約束守れよ」

「その、何をで?」

「キングへの忠誠。命をかけて」

「いやまあ、それは言葉の装飾としてでありまして」

「……くだらねえ種族だな。約束もできねえの」


 ほう、プリンスは相手によって、かなり言葉が変わる。


「我が種族を愚弄ぐろうするか!」

「おう、ならやってみろ! 蝙蝠こうもり!」


 翼の男は、居住まいを正した。


「誇り高き夜行族のヴァゼルゲビナード、ここに契約しよう。我が命を助けるならば、この者に命尽きるまで従う!」

「……すげえ大げさ。まあ、そこまで言うならいいかもな」


 プリンス。本当に一八歳であろうか。ここまで弁が立つ若者も珍しい。


 キングが鍵を壊し、翼男の首輪も割る。それを見た他の牢屋から「俺も出せ!」と声が上がった。


「キング、こっち」


 ヒメノがキングを呼んだ。その牢屋は、一組の老夫婦が入っていた。


「村長さんなんだけど、税? それが徴収できなかった見せしめに捕まったんだって」


 キングが考え込む。難しいところだ。悪人というのは、見た目ではわからない。


「その二人は本当でありましょう」


 誰の声かと思えば、翼の男だ。


「私の一族は魔眼という、魂のありようを見ることができます。その二人の魂は清らかです」


 魔眼か。この翼男、かなりの魔術使いかもしれん。


「そのほかの牢屋は?」

「クズですな」

「わかった」


 キングは老夫婦の鍵を壊した。それからキング、プリンス、ヒメノが中心となり作戦を話し合う。


 何組かに分かれて、物資と武器の強奪。できれば馬車を、と俺が付け足した。


「暴れるのは、おれとジャムさん。あと翼のおじさん。それで敵は、こっちに注目してもらおう」


 キングが俺を見る。俺はうなずいた。


「最重要は食料と水よ! 忘れないでね!」

「それなぁ。あんま危険だったら、次の街でもいいんじゃね?」


 キングの言葉に口をはさみそうになったが、ヒメノが先に注意した。


「キング、それはダメ。こういう世界だと、次の食料がいつ入るか読めない。っていうか、男子は三国志とか、歴史モノ読んでないの?」

「三国志……ゲーム?」

「小説!」

「ちょっと何言ってるかわからない」

「わかるわよ!」


 ふむ。王の覇気、宰相の智性。アヤの言うとおり、この二人がまぐわえば面白そうだ。

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