第7話 ヴァゼルゲビナード 「癒しの力」

新しい人が出てきたので、その人の視点で。

めんどうな作品でサーセン!

<(_"_)>

視点は翼男のヴァゼルケビナード。

ほか今話登場人物(呼び名)

ジャムザウール(戦士殿)

有馬和樹(キング)

蛭川日出男(ゲスオ、醜男ぶおとこ

姫野美姫(ヒメノ)

花森千香(花ちゃん、ハナ)

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 気高き夜行族。


 それが召喚に捕まり、このような地に堕とされるとは。


 さらには、行動を共にするのは年端としはもゆかぬ子供らばかり。


「戦士よ」


 横にいた蜥蜴とかげ族の男に聞いた。


「彼らは何歳なのです?」

「一七、一八だそうだ」


 一八! まだ百も行っておらぬのか。それを知れば、この稚拙ちせつさも致し方ないのかもしれん。さきほどから脱出してからの策ばかり論じておる。だが、ここを出る策がない。


「戦士殿」

「何か?」

「子供らは、ここからどう出るつもりでしょう?」

「さて、どうするのか。胸がはずむな」


 胸がはずむ? この戦士は言葉使いがおかしいのか。


 子供らが立ち上がった。


「じゃ、おれはなるべく派手にやるからな」


 まわりからキングと呼ばれた少年だ。キング、すなわち王とな? どれほど仲間内で強かろうと、軽々しく使う言葉ではない。


「日出男じゃなかった、ゲスオ、よろしく」

「おまかせあれ」


 醜男ぶおとこがキングに近づいた。


「むむむ! ご覧あれ最終最後の秘奥義!」

「いや、そういうの、いいから」

「くぅ。ノリが悪いでござる。秘技! お茶目な落書き!」


 醜男は何やら大げさに言ったわりに、キングとやらの身体に触れただけだ。そのキングは何を思ったか、牢屋に入り直した。


 壁に手をそえる。


「粉・砕・拳!」


 ごっ! と壁に拳が当たると、壁は粉々に吹き飛び、大きな穴が空いた。


「なっ!」


 何をやった? 魔術ではない。魔術であれば、その流れが見えるはずだ。


 壁の向こうは廊下だった。


「ありゃ、こっちが外だと読んだんだけどな」


 そのまま真っすぐ横切り、廊下の壁に手を当てる。


「粉・砕・拳!」


 また廊下の壁が吹き飛ぶ。穴の向こうで口を開けているのは兵士だ。どうやら兵士の食堂であるらしい。


「ぎゃあ!」という、さけびと共に兵士が逃げ出す。


「何が、何がどうなって」


 私の疑問に答えてもらいたかったが、横にいた蜥蜴の戦士も口をぽかんと開けている。


「おふたかた、参りましょうぞ」


 私と戦士の間に立ち、手を引いたのは、さきほどの醜男だ。


「ヒデオ殿、これは」

「ゲスオで結構でござるよ、ジャム師匠」

「ゲスオ殿、キング殿の力はいったい……」

「はい。キングのスキルは拳で殴ると粉砕するという力です」


 スキル、そんな物があるのか。


 醜男と戦士の会話に耳を立てる。


「それにしては、規模が……」

「はい。拙者せっしゃのスキルは敵のスキルに四文字だけ落書き、つまり字を足せるというものでして」

「それは敵だけでなく味方も?」

「そのとおりです。この場合『砕く拳』が、『なんでも砕く拳』に変わっております」


 蜥蜴の戦士が絶句している。私も同じだ、こんな物は見たことがない!


「それは……最強の力、であるな」

「はい。うまいぐあいにチートが完成です」

「では、昨日の地下歩行術も?」

「さすが師匠! あれは『どこでも潜水』を、『みんなでどこでも潜水』に変えておりまする」


 前を歩く少年の一人が笑いながら振り返った。


「誰かがいないと、チートにならないけどな!」

「おほほほ! 寄生虫とお呼び!」

「……そこまで言ってねえよ」


 ゲスオとやらの話の大半はわからぬ。だが、この男が他人の能力を増幅させるようだ。


 どごん! と音がし、食堂の向こう側の壁が吹き飛んだ。


「しかし、なぜ四文字という縛りを……」


 私の疑問に、にやりとゲスオが笑みを浮かべた。


「無制限や無限というスキルはダメなようでして。四文字というところで審査に通りました」

「では、五文字でもいいのでは……」

「ぐふふ。社長」


 なぜ、社長と呼ぶのか。


「そこはほれ、世のいかがわしき言葉は、すべて四文字で現せますゆえ。例えば、おま……」


 ゲスオの後ろから、少女の手刀が炸裂した。


「おまえは、歩くR18か!」

「ヒメノ嬢のいけずぅ」

「この話題の時に、嬢とつけるな!」


 二人の意味不明な会話は置き、外に出る。


 昼間だった。


 私は夜行族だ。まぶしすぎて、目を開けるのが辛い。


「まさか、蒸発しませんよね?」


 ヒメノと呼ばれた少女が聞いてきた。


「蒸発? まぶしいのと日焼けが傷に染みるのとで大変なのです」

「傷! そうだった! 花ちゃーん!」


 ヒメノが、ハナというさらに小さな子を呼んできた。非力な娘で何をするつもりなのか。


「傷、いける?」

「あ、はい!」


 ハナという娘が親指と人差指を立てた。


「お注射♡」

「……なんでスキル名それ?」

「えっ? だって、看護師のイメージで」


 人差し指で私をつついた。


 まったく、子供の遊びに……


 なんだこれは? 身体の内から、とどまることなく力があふれる。


「ふははは!」


 あまりのみなぎる力に笑いがこみ上げた。


「ちょっと、ゲスオ!」

「ははー!」

「ハナちゃんのスキル、ブーストかけた?」

「もちろんであります! 『癒やす』を『すべて癒やす』に改変しております隊長!」

「やばっ、ドラキュラさん、臨界突破! って状態なんだけど」

「最高にハイッってやつですね」


 背骨に激痛が走り、翼が伸びる。内臓がひっくり返るような衝撃に耐え、目を開けた。


「ま、まぶしくない!」


 陽の光でも目を開けていられる。そしてこれほど、これほど、輝きのある世界だったのか!


 光が満ち満ちていた。空は辺際なき青さが広がり、雲はあまりに雄大で壮観だ。


 涙がこぼれた。


 この世界は、どれほどの美しさに包まれているのか。


「……癒やされ過ぎちゃったね」

「はっ! いささか、反省しております隊長!」


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