第6-2話 ジャムザウール 「牢屋」

「我が名は無音鬼むおんき。音も立てず忍び寄る」


 アヤの後ろ、いつのまにか男がいる。ずんぐりむっくりな体型に、目の光が異様にするどい。


「なんだその、中二病みたいな名前は」

「じゃあ、おれは蓄音機ちくおんき

「キング、それ何も例えれてないぞ」


 キングとプリンスが起きていた。こちらに向かって身を構えている。


 周囲から兵士がわいた。


「しまった、壊し忘れた! 忘れないようにメモしたのに」


 横でヒメノがつぶやいた。壊し忘れた? ああ、首の鉄輪か!


 キングが一歩踏みだし、獣が飛びかかる前のように身を沈めた。


「無音鬼だったか。誰か一人でもケガさしたら、おれがおまえら、全員を殺す。誰もケガしないのなら、おとなしく捕まる」


 彼の殺気が高まった。


 無音鬼と名乗った男が片手をあげ、ゆっくりと答えた。


「こちらも捕まえるのが仕事。縄をかけさせてもらえば手出しはせぬ」

「それはできない。おれとプリンス、ジャムさんの腕はそのまま。あとは人質とすれば充分だろう? これで五分だ」


 なるほど。ヒメノが言うだけある。キングは正に王の資質。今も交渉に見えて、交渉ではない。命令だ。


「面倒くせーな。もう、誰が生き残るか、やりあおうぜ」


 プリンスが殺気立った。兵士が身構える。


 これは何気に、考えを二つの案に絞らせた。その二つとは、キングの案か、やりあうか。その二択だ。


 このプリンスという若者は、年に似合わぬしたたかさを持つのか。


 そして敵としても、徹底的にやり合う気はないようだった。交渉は成立。三人以外のみなが捕縛された。


 昨日に逃げた都に戻る。


 街の中にある兵舎に連行された。大きな石造りの兵舎だ。奥に大部屋があり、牢屋だった。


 若者たちは数人ずつに分かれて牢屋に放りこまれた。一人、我が身だけは離れた牢だった。


「とんだ屈辱をかかされたわ」


 若者たちの牢に誰かが話しかけている。


 柵まで出てキングたちの牢を見る。ローブを着た老人。あれがキングらを召喚した者か。


「どうやって逃げおおせたか、明日に尋問する。そののち闘技場で処刑となろう」


 俺は牢の柵をつかんだ。


「逃げた手法は俺の秘密だ。俺を尋問すれば良かろう」


 この身を恥じた。守ると約束しておきながら、このざまだ。


「ほう、では、明日はそなたから尋問しよう」


 そう言ってローブを着た老人は帰って行った。


「みんな、いるかぁ!」


 キングことアリマの声だ。


「いるぜい!」

「ここにいるよ!」

「だいじょうぶよ、いるわ!」


 口々に返事が返った。


「わかんね。出席番号いっていい? 1!」

「2・3・4・5・6……」


 点呼のことか。事前に番号を振っていたようだ。


「25・26・27」

「ニハチ~」

「ソバ!」

「ヤマダのやつ~、じゃあ先生も!」

「古っ!」

「えー、なにそれ?」

「ユーチューブであるじゃん、昔のCM」


 何か盛り上がっている。これも符牒ふちょう、何かの合い言葉だろうか?


「姫野、もうこれ、ブースト解禁するぞ?」

「ええっ! 奥の手よ!」

「時間かけないほうがいい。もしバラバラな場所になるとメンドイ」

「あー、うん。そうね。ゲスオは?」

「キングのとなりでござる!」

「じゃあ、お願い」


 ブースト? 何をするのか。ごん! という音が聞こえた。その後に、ぎぃと柵が開く音。施錠を壊したのか?


 ごん! ごん! ごん! と何度も音が鳴る。


「ジャムさん、おまたせ」


 キングが俺の牢屋の前に来た。


「ちょっと下がって」


 小さな扉の鍵穴を拳で軽くたたく。ごん! と音がして、鉄の錠前はくだけた。


 さらに中に入ってきて、俺の首に裏拳を当てる。鉄の首輪までがれた。


「これは……」

「おれの特殊スキル『砕く拳』なんです」

「しかし、鉄まで……」


 これは人外じんがいの力だ。軽くたたいたようにしか見えなかった。

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