第6-1話 ジャムザウール 「色恋沙汰」

視点、ジャムザウール

ほか今話登場人物(呼び名)

有馬和樹(キング)

飯塚清士郎(プリンス)

姫野美姫(ヒメノ、ヒメ)

友松あや(あや、アヤ)

蛭川日出男(ゲスオ)

ー・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・


 戦士である身、夜の見張りをするのは当然だ。


 夜がふけてきたので、みなをき火のまわりで寝かせる。


 俺とアリマ、いやキングだったか、それにプリンス、この三人が交替で周辺を見張る。


 若者たちは、ひとしきり談笑していが、すぐに寝た。聞けば、この者たちの世界では、日常で命のやり取りはないと言う。それなら、かなり疲れているだろう。


「ジャムパパ?」


 声に振り向くと、ヒメノだ。


 おなごの一部から「ジャムパパ」と呼ばれ始めた。俺の年は三十九だが、一部の親と同年齢らしい。


「子供は早く寝ろ、とでも言われたいか?」


 ヒメノが笑った。


「寝るけど、言わなくていいかもしれないことを、ハッキリさせとこうと思って」

「言わなくていいこと?」

「うん。こういう世界でしょ。パパには全員を守って欲しいけど、そうじゃない時もあるかもだし……」


 俺は娘の目を見た。


「助ける序列か?」

「そう」


 おどろいた。おなごでそれを考えるか。この世界には来たのは一日? それほど時刻は経過しておらぬというに。


「もちろん、一番はジャムパパ。ご自身ね。その次が予想つくと思うけど……」

「キングことアリマ殿だな」

「そう。彼がいないとバラバラになるから。次点がシュウ」


 意外な人選に俺は首をひねった。


「ほう、今日の話で言うドクだったか。プリンスではないのだな?」

「んー、プリンスはプライド高いし、放っといていいと思う。今日の話を聞くと、ドクは今後、最重要になりそう」

「なるほど」

「その次が、あの子」


 寝ている中で、小柄こがらな娘を指差す。そのとなりに寝ていた大柄おおがらな娘が起きた。


 大柄な娘は、起きて小柄な娘のめくれていた上着を直している。


「あの小柄な娘が守る三番手か。意外だな」

花森はなもり千香ちか、彼女のスキルは回復なの」

「なるほど、理にかなっている」

「かなってる? パパに言われると安心するわ」


 かなうどころか、あきれる。我が国にいれば軍師にしたい資質だ。


「わかった。三人は何があっても守ろう」

「うん。よかった」

「しかし、謎だな」

「謎? なにが?」

「これほどの統率、見事だが、男女であろう?」


 ヒメノは空を見上げた。


「あー! それ聞いちゃう?」


 ヒメノが上げた声に、焚き火に木をくべていた大柄な娘が振り向いた。


「ヒメ、なあに?」


 大柄な娘が近づいてくる。ヒメノが俺に説明した。


友松ともまつあや、彼女は八人兄弟の長女でね。面倒見がいいの」


 なるほど。年齢は若いのに、どこか母性を感じさせるのはそれか。


「ヒメ、なんの話?」

「あや、みんなに内緒よ。ジャムパパに聞かれちゃった。色恋沙汰いろこいざたはどうなってんだって」


 アヤと呼ばれた娘まで「あー」と天をあおいだ。


「ヒメ、それって、ほかのクラスからも言われるし」

「ドロドロ展開?」

「ビバリーヒルズ? 的な?」

「ないわー」

「ないよねー」


 娘二人が笑っている。


「キングとプリンスが飛び抜けすぎてて、ちょっと現実感ないのよね」

「えー! ヒメまでそれ言う? あんたが無理なら、誰でも無理だわ」


 アヤはそう言って、次に遠い目をした。


「恋愛対象じゃないのよね。うちは特に恩が多いし。二人には」

「恩、とな?」

「うん。ジャムパパ」


 この子まで、その呼び方がうつったのか。


「一時ね、弟がひねくれて。たたき直してもらったから」

「えっ! うい耳!」

「冬休みいっぱい、あの二人にラチってもらったの」

「うわっ! キングはいいけど、プリンス厳しそう」


 アヤは顔をしかめてうなずいた。


「うん。この世の仏と地獄を見たって言ってた。ああでも、なぜか、俺でも生きていける自信がついたとか」

「……ゲスオもいたのね」


 ヒメノが確信を持って言う。ゲスオ殿、ひどい言われようだ。


「弟は今じゃすっかり、二人のファンね」

「ファンか。それに近いのかも。わたしら女子も」

「ヒメはそうでもないでしょ。でも、どうせなら女子全員に二人の子種をくれればいいのに」


 すごいことを言う。俺もおどろいたが、ヒメノも口をぱくぱくさせた。


「あ、あや、過激!」

「そう? あの二人の子供よ? 結婚はいいから、育ててみたくない?」

「無、無理! なんか責任重い!」

「それがダメなら、ジャムパパと人間でも作れるのかな? それはそれで面白そう」


 アヤに見られて、思わず下腹が痛くなった。祖母の言葉を思い出す。


「おなごは生まれた時からおなご。見くびるでないぞ」


 との言葉。その時、気配に気づいた。


 囲まれている。


 剣のつかに手をやった瞬間、アヤの喉元のどもとに短剣が止まった。

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