第5話 飯塚清士郎 「秘密の呼び名」

視点、飯塚清士郎。

各話、サブタイトルの名前が「誰の視点か?」と表しています。

めんどうな試みでサーセン!<(_"_)>

ほか今話登場人物(呼び名)

喜多絵麻

ジャムザウール(ジャム殿)

有馬和樹(キング)

坂城秀(シュウ、ドク)

蛭川日出男(ゲスオ)

姫野美姫

ー・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・


「清士郎、最後尾をたのむ!」


 俺の親友、有馬和樹に言われた。


 言われなくとも、そのつもりだ。クラスのやつらが歩く最後尾に移動した。


 歩きながら、森をながめる。まさか、高校生の俺が異世界に来るとはな。


 思い出すのは、こうなったきっかけだ。高3の夏休みとは、高校で最後の夏だった。


「思い出づくりに花火をしよう!」


 クラスの誰かが言った時は、いい案だと思った。ところが、そこから異世界だ。まだ現実感がこないのか、はしゃいでいるやつもいる。クラスで遠足にでも来た気分かもしれないが、それどころじゃない。


 森が深くなるほど、その思いがつのる。植物は地球の物とているが、どこか違う。そして、こんな深い森は関東にはない。


 日が暮れてきたので野営地を探す。


 この時、あたり一帯を探索し、獣やその巣がないかを確認するのが重要だ。とまあ、物知り顔で言うが、すべてはリザードマンの戦士、ジャムザウール殿の教え。


 き木を集め、そのまわりに輪になって座る。この場だけ見れば、高校生のキャンプファイヤーに見えなくもない。


「おい、焚き木を集めたのはいいけど、どうやって火をおこすんだ?」


 俺はみんなに話しかけた。原始人のように木をこすり、なんてのは実際には上手くいかない。


「私が」


 女子の一人が歩み出た。喜多きた絵麻えまか。商店街にある「キッチン喜多」の娘だ。


 俺たちは、一人に一つの特殊スキルを与えられている。喜多は、どういうスキルにしたのか。


 喜多が、焚き木を見つめて人差し指を立てた。


「チャッカマン!」


 ぼう! と焚き木に火が点いた。


 スキル名、そのままかよ! しかし、さすが洋食屋の娘。料理に必要なのは火だ。


「自己紹介したほうがいいのかな」


 だれかが言った。みんなで焚き火を囲む状況だ。ジャム殿に自己紹介をしようとしていた。俺は手を上げてそれを制す。


「自己紹介も必要なんだが、みんな、わかってるように非常時だ。もうかげのコードネームをバラすぞ」


 みんながうなずく。ぽかんとしてるのは、我が親友の有馬和樹だけだ。


「なんだ? 影のコードネームって」

「大げさに言ってるだけでな。みんなが陰でどう呼んでるか? 秘密のニックネームってやつさ」

「へー、誰を?」

「主に、お前を」

「へっ?」


 さらに間抜け面してるよ。


「お前はキングだ」

「はい?」

「そして、俺は……」


 これ、言いたくねえなぁ。俺は喜多絵麻と目線を合わせて、自分に指を差した。


「飯塚くんは、プリンスって呼ばれてる」

「プププ、プリンス!」

「笑うな! お前がキングって呼ばれるから、俺まで巻きぞえになったんだからな」


 キングこと有馬和樹は腹を抱えて笑っていたが、ふと気づいた。


「待てよ、おれがキングって何で?」

「統率力だろ」

「はぁ? わけわかんねえ」


 ほんとにわからない時の顔だ。


「にぶすぎだろ! 高1の林間学校で、滑落かつらくした家族を助けたろ」

「ああ、みんなでな」

「お前が仕切ってたじゃねえか」


 キングはまゆを寄せた。まだわかってない。


「みんなオタオタしてただろ、普通はそう!」

「清士郎は、オタってなかったぞ」

「俺は別!」

「おお、さすが御曹司おんぞうし

「うるさい! 茶化すな!」


 くっくっと誰か笑っていると思ったらジャム殿だった。


「あっ、すいません。内輪の話ばかりで」

「いや、話の内容はおおよそつかめた。つまり、みなはアリマ殿を一族のおさしたい、本人は気づいておらん、という話だな」


 ジャム殿の言い方が的確すぎておどろいた。


「そのとおりです」

「ふむ。どうりで、奇妙な一団としてのまとまりがあるわけか」

「まとまりですか。まあ、うちのクラスだけ一年から三年まで同じという特殊さもありますが」


 俺の言葉に、さきほど火をつけた喜多絵麻が身を乗り出した。


「それそれ! すっごい運がいいよね!」

「まあ、理由はあるけどな」


 このさい、秘密を言うべきだと思った矢先、張本人が登場した。


「はいはーい、これどうぞー」

「シュウ、なんだそれ?」


 シュウこと、坂城さかきしゅうが持ってきたのはキノコだ。キノコはカラフルで毒々しい。


「それ食えるのか?」

「食べれるよ。僕のスキルで調べてあるから」

「シュウのスキルって何だ?」

「鑑定。ラノベでよくあるやつ」

「やっぱ、そういうのにしたのか。スキル名は?」

「いい仕事してますね! だよ」

「……ドク、学校サボって昼の再放送見すぎだぞ」


 坂城秀は、よく学校をサボる。一年時なんて、最初の半年を登校拒否していた。


「ドクって何?」


 喜多絵麻が聞いてきた。俺が「坂城秀」を「ドク」と呼んだのに気づいたか。


「ああ、俺と和樹、日出男の三人と遊ぶ時のアダ名」

「ええ? そこ、そんな仲良かったっけ?」

「まあな。でもドクは一人が好きなとこあるし」

「学校、来ないもんね」

「最近は来てるよ!」


 ドクが、わざと怒ったような顔をした。


「さっきのクラス替えがない理由、それがこれだ」


「はぁ?」という声が一斉に聞こえた。


「ドク、いや坂城秀が、学校に言ったのさ。このクラスだったら学校に行くって」

「はい? 無理でしょ! どんな権力よ」


 横から口をはさんだのは、姫野だ。


「それができる。こいつ、天才だからな」

「天才って、シュウくん、成績って中の上、ぐらいでしょ」

「ああ、答案の七割か八割ほど書いたらヤメるからな」

「はぁぁぁぁ?」


 姫野が大声をあげた。ドクは恥ずかしそうに頭をかいている。


「天才っていうんじゃなくて、記憶力がいいだけなんだ」


 姫野の目が点になった。


「はい?」

「ほらテストに教科書を持って入れたら、誰でも百点取れるでしょ。ずるしてるみたいでイヤなんだ」

「それ、天才だし!」


 日出男が前に出て、人の悪そうな笑みを浮かべる。


「ぐふふ。ドク殿は、正にリアル・チートでござるよ。行くすえは博士か官僚か。どちらにせよ、われら下民の上に立つおかた」


 大げさに正座をして祈りを捧げた。


「ゲスオ、やめてキモい」

「ゲスオ?」


 姫野の言葉にキングが食いついた。


「ああ、お前がキング、俺がプリンスだろ? 日出男が自分にも何かつけろって言うの。んで、女子がつけたのがゲスオ」

「それはちょっと……」


 キングが眉をしかめた。まあ、正義感のかたまりだから、そうなるだろうな。


「ぐふふ。我が陰のコードネームが暴かれし時、おさえることなき我が力、見せようぞ」


 ゲスオ、眼鏡が月光で光ってるぞ。でも、その力って、シモネタ言うってだけだしな。


「ちょっと色々と急に話しを詰めすぎたかな。まあ、これでクラスの秘密は全部だろう。これから大変だろうから、話しといて良かったわ」


 俺が安堵あんどのため息をつくと、姫野が立ちあがった。


「いや、最大のミステリーが残ってるわよ」

「はっ、なに?」


 ビシッ! と姫野は日出男に指を差した。


「キングとプリンス、それにドクはわかるわよ! なんでゲスオがその輪に入るのよ!」


 女子一同がうなずく。


「さあ、なんとなく?」


 俺は適当に答えた。


「それね、とってもいい話だよ」


 ドクがキノコを木の枝に刺しながら、口を開いた。


「おい、ドク」


 俺の言葉は無視して、ドクはキノコを焚き火で焼く。


「プリンスがゲスオをいじめて、キングが怒って。そこから二人のすごい喧嘩。プリンスあやまらないから、キングが殴り続けて。最後になぜか、ゲスオのほうが土下座でキングに謝って。昭和の少年漫画みたいだったよ」


 みんなが黙る。俺はため息をついた。


「それについて言い訳はしない。俺はキングと会う前は、ひねくれてたからな。まあ、最低のやつだったわ」

「どうかな。最低で言えば、その時、見てただけの僕が一番最低じゃないかな」


 ドクはキノコが焼けたようで、少しかじった。


「熱っ!」

「火が近いから。そういうのは焼くんじゃなくて、あぶるの」


 喜多絵麻が焚き火に近づいた。キノコを木の枝に刺し始める。何本もたくさん作った。みんなの分も焼く気らしい。


「まさに、仲間、というわけだな」


 黙って聞いていたジャム殿が口を開いた。


「この一族の長はキング殿。俺もそれに従おう。我が命を救ってくれた礼もまだだった」


 ジャム殿がキングに向き直し、頭を垂れた。


「陰の支配者は姫野美姫でございますぞ、ジャム様。あの者は姫という字が二つもありながら、姫というより正に魔王。ぎゃふ」


 姫野がゲスオの脳天にチョップした。


「っつうか、ゲスオは、よく二人に入っていけるわね。他のクラスの人が遠巻きに見てるのわかるでしょ!」


 脳天チョップを受けたまま、ゲスオが笑った。


「意気地なしどもめ。無双の男前、それが二人相並あいならぶ奇跡ぞ。そこと同じ釜の飯を食らう千載一遇の好機。遠慮する暇などござらん!」

「……ござらんって、お前、どこの武将だよ」


 姫野があきれる。クラスのみんなが吹き出した。


 まあ、大変なことになったけど、なんとかなりそうだ。

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