第3話 有馬和樹 「どうやって逃げるか」
視点、有馬和樹。
－・－・－・－・－・－・－・－・－・－・－・－
じめじめとした地下通路で待たされた。
扉が開く。おれは、クラスのみんなに待っているように伝え、扉をくぐった。
やはり！ 外は闘技場だった。歴史の授業で習ったローマと同じ。何万人という観衆が騒いでいる。
大歓声が気になったか。待っているはずのみんなが扉から出てきた。
クラスのみんなは言葉を失い、立ち尽くしている。冷静なのは誰か？
清士郎は大丈夫だ。やつは今、冷静に周囲を見まわしている。状況と環境をつかもうとしているか。
ほかにも冷静そうなやつはいた。メガネを上にあげながら、
二人は歩きながらコソコソと話をしている。おれは目立たないように二人に近づいていった。
「何か策はあるか？」
姫野は空中に目を走らせている。この姫野のスキルって何だろう？
「考えてるけど、ちょっと待って」
やっぱり何かあるんだな。姫野はクラスで一番に頭がいいと言われている。それは、ペッタンコの胸の栄養が頭に行ってるからだ、と男子は陰で言うが本人には言えない。そして一番に頭がいいのは別にいるのだが、まあそれは今はいいだろう。
「日出男は大丈夫か？」
「ふふふ」
日出男は眼鏡を上げた。
「
もう一度、眼鏡を上げた。その手が震えているのに気づいた。強がりか。それでもいい。今は必要だ。
ほかの扉から、バケモノみたいなのが出てきた。この状況、このさき何があるかは、もうバカでもわかる。
「今日は皆さんに殺し合いをしてもらいます」
そんなセリフの映画は何だったっけ？ 通常なら、そうなるかもしれないが、このクラスはちょっと変わっている。おそらく、大人が思うようにはならないはずだ。
ドンドン！ ドンドン！ 太鼓が打ち鳴らされた。
「戦闘を開始してください。最後の一名が勝者です」
場内放送が聞こえた。
向こうの方で、大きな人型が殴り合いを始めた。動きが鈍そうなのは、トロールか。もう一方は……ギリシャ神話に出てくる巨人ギガンテスそっくりだ！
はっ！ と気づいて振り返る。おれたちの集団の少し離れたところ。見た目はトカゲだが、人間と同じように二足で立っている。剣を腰にさし、背中には盾と弓。
あのトカゲ男、おれらの世界の寓話で言うと「リザードマン」だ。そのリザードマンは腕を組み、立っているだけ。
いや、そうではない。気配を断って戦況をながめている。
おれと目が合い、トカゲ男は苦笑いをした。この人とは戦いになりそうにない。少し危険だが、近づいてみた。
「
自分の方から名乗ってみる。
「俺はジャムザウール。その身のこなし、武闘家か？」
おお、言葉が通じる。そして、すごいな。おれの特性を一発で見抜いた。この世界でも武闘家はいるのか。
「はい。有馬流古武術、というのを父から習っています。見ただけでわかるのですか？」
「歩き方がな。
すごい。そしておそらく、おれより強いだろう。
「どこから？ と聞いていいですか？」
「別の世界だ。この世界のことを教えてくれるか？」
なるほど。おれは、ここの人間と見た目が同じだ。
「いえ、おれも、あの集団も別の世界からで、何もわかりません」
おれはクラスメートを指差す。ジャムザウールと名乗ったリザードマンは、それを見て顔を曇らせた。
「そうか。みな、若いのに気の毒な」
「どうにか、助かる手はないでしょうか？」
「ないだろう。助かったとしても
そう言ってジャムザウールは首の鉄輪を叩いた。そして、おれのほうを見て笑う。
「今、どいつと戦って
なんだろう、この人。戦う相手かもしれないが、ものすごく尊敬できそうな気がする。
「なんとかなるかも、しれません」
ジャムザウールさんは、おれの言葉に首をかしげたが、一緒にクラスメートのもとに帰った。
戦闘は続いている。
バケモノたちに比べれば、おれもリザードマンもずいぶんと小さい。バケモノどもは、おれらのことは丸無視だ。最弱と見なしているのか。
「姫野、どうにかなりそう？」
「和樹くん、ちょっとそれ」
おれの後ろを指差している。
「ああ、知り合ったジャムザウールさんだ。できれば一緒に行動したい」
「そ、そう。まあ、和樹くんがそう思ったんなら、正解かも」
姫野の指示で、ひとつに固まった。
うまくいって欲しい。おれのせいなのに、今はおれの力じゃ守れない。
姫野、頼むぞ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます