第2話 大賢者ハビスゲアル 「召喚祭」

視点変わります。召喚したほう魔法使いのハビスゲアル。

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 我輩わがはいは、闘技場の召喚士席に座った。


 この「召喚祭」に参加する召喚士だけが座れる席だ。

 

 今回の召喚は奇跡が起こった。勝ちも同然。これで宰相への道も近づくというもの。


 開始はまだか。空は灰色である。雨が降り出す前に始めればよかろうに。


「それでは、闘技者の入場です」


 拡声魔法の声が会場に響いた。一万を超える観客から歓声がうなりをあげる。


 いよいよだな。


 闘技者の扉が次々に開かれた。


 ほほう、アンリューラスは有翼人種ゆうよくじんしゅか。よい召喚だ。


 モルイッチは……またトロールか。あれは攻撃力はそこそこあるが、オツムが悪すぎる。学ばぬ男よの。


 おお、我が闘技者の扉が開いた。


 扉から次々に出てくる。


 会場が静まった。そうであろう。


「これは……魔法使いのハビスゲアル、複数召喚! 複数召喚です!」


 会場がどよめいた。


「ただいま審査を行っております。しばらく、お待ち下さい」


 何も不正はしておらぬ。召喚石を一つ、それで28人だ。


「確認できました! 間違いありません! 魔法使いハビスゲアルの召喚数は28匹です!」


 会場の喝采かっさいに手を上げて応えておこう。それに「魔法使い」ではない。次は「大賢者」と呼ばせよう。


 今回の召喚では大漁に釣れたが、年齢は若い。そして魔法も使えない雑魚ざこばかりではある。しかし、特殊技能は与えた。


 あの中から、どれかは勝ち上がってくるだろう。


「それでは召喚祭の開始です!」


 特設の音楽隊から、大太鼓おおだいこが叩かれる。

 

 戦闘が始まった。


 我が召喚人たちは……身動きもできぬか。なんと臆病な。小僧や小娘では無理だったか。


 いや、ひとりが敵に向かったか。……ぬぅ。戦わずに話し込んでおる。


 あまりに無様であれば、ここから火焔球かえんきゅうはなつか。みずからの手で処理したほうが、大衆受けは良かろう。


 小僧小娘が集まり始めた。ほほう、協力して戦うか。そうであろう。


 いや、戦う気がないのか。ぎっしりと、ひとかたまりに身を寄せている。


 これはもはや、処理しよう。


 手のひらを向け、火焔球かえんきゅうの呪文を唱えた。点のような小さな炎は、とぐろを巻いて大きくなる。


 集団の真ん中に狙いを定めた。さらば、若き召喚人たちよ。


 その時、小僧小娘の姿が一斉に消えた。


「ば、ばかな……」


 思わず声を漏らしたが、確かに少年少女の姿は闘技場から消え失せていた。

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