3年F組クラス転移 帝国VS28人のユニークスキル。剣と魔法の世界に召喚された高校生はざまぁかましてエルフの廃墟でのんびりスローライフのつもりが人類の危機に立ち上がり団結チートで国を相手に無双する

代々木夜々一

前巻

第1話 有馬和樹 「召喚部屋」

 二子玉川の河川敷に来た。


 夏休み初日。


 ここに来たのは、みんなで花火をするためだ。


 川の土手に登り、あたりを見まわしてみる。あいつらはどこだ。


「和樹くん!」

「有馬、こっち!」


 クラスメートがいた。手を振っている。おお、もうみんないるのか。このクラスって、ほんとに仲がいいな。


 みんなのもとへ行くため土手をおりる。


 おりた河原は、あたり一面に足首ほどの高さで雑草がはえていた。


「んっ?」


 おれの足元だ。ぼうっと光るラインがある。どこかの建物からライトでも当たっているのか。でもまだ夕方だ。


 光るラインは、ちょうどおれを囲むように円になっていた。なんだこの光るサークルは。って、まじか、身体がゆっくり沈んでいく!


 逃れようと動いたが、びくともしない。


 ふいに、おれの腕がつかまれた。クラスメートの女子か。だめだ、その子もろとも引きずりこまれる!


 さらに誰かがきた。その女子の腰にしがみついた。それでも沈んでいく体は止まらない。


 みんなが駆けてくるのが見えた。よせ、逃げろって!


 ……気づけば、ごつごつとした石造りの部屋だ。


 まわりを見る。知った顔がそこにはあった。くそっ、3年F組の全員が落ちたのか!


 扉が開いた。灰色のローブを着た老人が入ってくる。頭はツルッパゲ。聖職者? いや雰囲気がちがう。倒すべきか?


「和樹、待て」


 重心を沈めて飛びだそうとしたところ、肩を叩かれた。振り返る。親友の飯塚いいづか清士郎せいしろうだ。


 清士郎が首を振る。様子を見ろ、という事か。


 清士郎の家は古くからの武家ぶけで、飯塚抜刀術の家元だ。こいつは祖父から徹底的に手ほどきを受けている。真剣で練習をする古武術だ。こういう時の肝の座り方は尋常じんじょうじゃない。


 老人が何かしゃべった。言葉がわからない。そう思っていると、何かを唱えて腕を振った。


「これで言葉がわかろう」


 ほんとだ、日本語に聞こえる。


諸君しょくんらを召喚したのが、吾輩わがはいである。先に申しておくが暴れようとすれば……」


 老人が手をかざすと、身体が重くなり身動きが取れなくなった。横を見ると清士郎も同じだ。嘘だろ、魔法かよ!


 生まれて初めて魔法を見た。おどろいていると扉から大勢の兵士が入ってきた。身動きが取れないまま、鉄のような金属でできた輪っかを付けられる。しまった、やはり入ってきた瞬間に倒すべきだったか!


「その首輪は、諸君らの居場所を探るものだ。危害はないので安心したまえ」


 老人が笑っておれを見る。手を下ろすと、身体が動くようになった。


 兵士が二枚の羊皮紙ようひしと、羽ペンを配った。一枚が薄っすら赤っぽくて、もう一枚が青っぽい。めくって裏を見ると、何かの魔法陣が描かれている。


「諸君らに特殊技能を一つ、授けることができる。赤にその名前を、青にその効果を書きたまえ。元いた世界の言葉でかまわぬ」


 特殊技能?


 誰かに見つめられている気がして、振り向いた。おれのもう一人の親友、蛭川ひるかわ日出男ひでおだ。そうか、日出男が貸してくれたラノベと同じか!


 日出男と清士郎、三人で馬鹿話をしたことがある。自分なら、どんな特殊スキルがいいかと。あの時、日出男は言った。自分が最も得意なものであること。そうでなければ、応用が利かないと。へたにチートと呼ばれる最強スキルを狙うと、だいたい上手くいかないらしい。


 日出男と目線が合い、うなずいた。やっぱり、それが言いたいのだろう。


 日出男は、さらさらと一番に書いた。老人のもとに持っていく。老人がそれを見て口をひらいた。


「無限の魔力、ふむ。無限というのはできぬな」


 日出男は新しい紙を持って下がった。また、すぐに書いて持っていく。


「特殊技能の強奪ごうだつか。できるが、さきほど言ったように一つしか持てぬぞ? つまり、強奪した瞬間に、強奪の能力はなくなる」


 日出男は肩を落として帰っていった。そして再び提出。


「ほう。青色に書かれた能力がこれか。乳房の大きさに比例して、自分を好きになる。そして赤色に書かれた能力の名前は、巨乳らぶ。これは、ふざけておるのか?」


 日出男が、ここ一番肩を落として帰った。


 何度もそれを繰り返し、ついに納得のいくスキルが通ったようだ。


「これは、何の得があるのか……まあ、よかろう」


 老人は二枚の紙を頭上に掲げ、何かを唱えた。赤と青の紙は燃え上がり、その炎は小さく集まると日出男に向かって飛びこんだ。


「ほかの者はトロール並みの頭か? いつまでかかるのだ」


 みんなが、はっと我に返った。急いで書く。日出男は自分が終わったからか、みんなの紙をのぞいたりと余裕だ。


 全員の儀式が終わるまで、かなりの時間がかかった。28人もいる。


 おれは自分の儀式が済むと、相手の隙を突いて倒そうと思った。だが、あきらめた。部屋には大勢の兵士がいて、ここで戦闘を始めても勝てない。


 儀式が済むと、部屋を出て歩かされた。長い廊下を進んでいく。


 しばらく歩くと、大きな扉の前に来た。


 うしろで兵士が動いた。廊下をさえぎる鉄格子てつごうしの門だ。


 おれらは閉じこめられるのか。止めようとしたが間に合わない。


 石の廊下が鉄格子でふさがれる。鉄格子の向こうにいる老人が、にらみをきかせ前にでた。


「それでは、諸君らの健闘を祈る」


 そう言って、老人は帰っていった。


 健闘? あの老人はそう言った。まずいぞ、この中世に似た世界でそのセリフ。


 ……ここは闘技場だ。

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