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「いやぁ助かった助かった! まっこと、感謝するぞ冒険者たち。よもやエリートモンスターがあれほど手ごわいとは思わなんだ」


 戦いが終わり、地べたに座り込みながらベスクが言った。


「力になれてよかったよ。でもどうしてあんなモンスターと戦っていたんだ。ソロでやるにはけっこうきつい相手だと思うけど」


「確かに無茶だったかもしれん。だが倒す必要があったのだよ。ギルドでクエストを引き受けてなあ、商人の姉ちゃんを守らんといかんのだ。だが最悪なことにあのカラスは索敵さくてき範囲はんいがバカみたいに広い。遠回りもできなんだ」


「それでクエストを達成するためにやむなく、と」


「左様。何れにせよ、これでひとつのクエストは達成するだろう。もうひとつがどうなるかまでは分からんがな」


 ベスクの分かった風な口調には引っかかりを覚える。護衛以外にも引き受けているクエストがあるのだろうか。


「護衛がメインクエストじゃないのか?」


「いんや、これはあくまでサブだな。メインは森での採集さいしゅうクエストだ」


『採集クエスト……』


 と、ここで声を揃えたのはパーティーの三少女たち。コトハとフィイとリズは初めて耳にする言葉にいかにも興味ありげだった。


「そう言えばだけど、みんなはクエストを受けたことがないんだっけ」


「だってアルトは〝クエストなんて効率が悪い〟って言って受けさせてくれないじゃない」


 コトハがすぐに不満を上げた。……リスみたいに頬を膨らませている。


「アルトくんは効率厨だから仕方ないのだ。実際にここまで早くLvが上がったことはさすがだと思うのだよ」


 今度はフィイが声を上げた。それはフォローしているのかけなしているのか。彼女のことだから前者だと信じたい。……効率厨ですまんな。


「おにいちゃんは負けずぎらいだからね! はやく強くならなきゃってがんばってるのはいいことだとおもうよ!」


 リズが俺をフォロー……フォローになっているのかそれは。


 内心ではみんなクエストに興味深々なのかもしれない。ソロならまだしもパーティーでやり方を強制するのはあんまりいい方法とは思えないし……ここいらでクエストにも触れておこう。


「なあベスクさん。良かったら俺たちに採集クエストを手伝わせて欲しいんだけど、いいかな。もちろんクエスト報酬はあんたのものだ。俺たちは正式に受けているわけではないからな」


「ダメということはない。手前てまえとて楽ができるのなら喜ばしいことだが、タダ働きをさせるとは良心が痛む。さすがに無報酬というわけにはいかんだろう」


「いや無報酬で構わない。本当に勝手に手伝いたいだけなんだ。というより手伝いたそうにしているパーティーメンバーがいてな」


「……ああうん、なるほど了解した」


 彼女たちは無言のまま、きらきらと瞳を輝かせている。


 その顔を見ただけで「採集クエストやりたいな~」なんて言葉が人知れず聞こえてくるのだ。ベスクもそう感じ取ったのだろう。すんなりと受け入れてくれた。


「随分と賑やかにしておる。ここまでクエストを楽しみにする冒険者というのも珍しい」


 OKサインがもらえたや否や、途端とたんに黄色い声を上げる彼女たちを見てベスクが笑う。


「いままでずっと狩りしかしてなかったからかな。――それで採集クエストを達成するにあたって必要なアイテムは?」


「黒リンゴが十個だ。内側も外側も真っ黒なリンゴなんだが、ここにしかない名産品らしい。きっと商人の姉ちゃんは売りさばくために欲しいのだろう」


「一次卸売おろしりと二次おろしりみたいだな……まあ分かった。集まったらチャットを飛ばすよ」


「おおそれはありがたい。任せたぞ皆の衆!」


 ベスクと別れて俺たちは黒森地帯の探索に出る。初めての採集クエストに、コトハたちは楽しそうに足取りをはずませていた。

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