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「それでそれで、採集クエストっていうのはアイテムを集めるだけでいいのかしら」


 コトハがうわついた声音で言った。


「そうなんだけど、これが意外と難しいんだ。採集してる間にもモンスターは容赦ようしゃなく襲ってくるし、運が悪くてなかなか揃わないこともある。集めるモノにもよるけど難易度は運しだいってところかな」


「こんかいは黒いリンゴさんをあつめるんだよね。どこかにないのかな」


 リズが周りをきょろきょろと見渡す。植物も花も黒一色なおかげで極めて探し出すのが難しい。なかなか目当ての品が見つからない。


「完全ランダムだからな。固定湧きしている場所でもあれば楽なんだけど、そう簡単にはいかない。モンスターを倒しつつ自分たちの目で探してみよう」


「待ちたまえよアルトくん。これだけ広いと探索たんさくも苦労すると思うのだ。ここは手分けして探した方がいいのではないだろうか」


 フィイが至極しごくまっとうな意見を挙げてくれた。


「それじゃあチーム分けはどうしようか。フィイとリズがバッファーで、コトハと俺はアタッカー。それぞれ一人ずつ別チームに分かれた方がいいと思うんだけど」


「心配しなくてもだいじょうぶだよおにいちゃん。たしかにわたしたちはバッファーだけど、ここくらいのMOBならなんとかできるもん」


 リズが強気に答えると、


「われも単独行動で異論ない。黒リンゴを十個も探しださなくてはならないのだ。二つに分かれるよりも四つに分かれた方が効率がいい」


 フィイもまた同調する。


 彼女たちがそう言っていることだし任せてみたいが……不安だ。彼女たちは元々バッファーであり所有スキル的にソロ活動は向いていない。本当に大丈夫だろうか。


「あからさまに心配だって顔してるわよ。大丈夫、わたしたちはキルゾーンでさえ乗り切ったのよ。こんなところで床を舐める冒険者はわたしたちの中に居ないわ!」


 コトハが胸を張って言うから不安は余計に大きくなった。フラグというよりもはやフリとしか思えないようなセリフだ。


「まあ分かったよ、俺もみんなのことは信用してる。――今から三十分後に合流でどうかな。それだけあったら充分集まると思う」


「問題ないわ。それじゃあ早速いきましょう。わたしたちの採集クエストスタートよ!」


 コトハの号令によって俺たちは散開。各自、黒森地帯の探索に出た。


 黒リンゴは現実世界にあるリンゴとまったく同じ形をしている。違うことといったら色くらいなものだから、ちゃんと目をらしていれば見つかるはずだ。


「――念のため使っておくか。疑っているわけじゃないけど、彼女たちはバッファーなわけだしあまり戦って欲しくない」


 久しく使っていなかったスキル〝挑発〟をここで発動。自身を中心として半径15m以内の全MOBのターゲットを買うヘイトスキルだ。


 これでフィイやリズが安心して探索に集中できる。反対に俺は戦闘に収集にと大忙しとなるだろうけどまあいい。三十分後まではこの状態を維持しよう。


『コトハ:もう五分ほど経ったけど調子はどうかしら。わたしは順調よ、もうふたつも見つけちゃったもの。ふふん、この分だとわたしが一番ね♪』


 だがそんな大忙しの中で、我らがお姫さまが唐突にパーティーチャットを始めた。あいにく俺は返信している余裕がない。他の皆に任せよう。


『フィイ:われも今ちょうどふたつになったところなのだ! この勝負、簡単に勝てると思っていると痛い目を見るのだ。謙虚けんきょに臨みたまえよコトハくん』


 いつの間に勝負事に発展していたんだろう。ツッコミたい気持ちを抑えつつ、チャット画面を流し読みする。


『リズ:えぇー! そんなのぜったいにうそだもん! リズのところはひとつもないのにみんなずるいよ。勝ちたいからってチートはいけないんだよ!

コトハ:チートじゃないわ、これが実力、いや日頃の行いってやつよ。きっと普段いい子にしてるわたしに女神さまが微笑んでくれたんだわ!』


 その理論だとお前は間違いなく最下位になるだろう。今のうちに女神さまとやらに謝っておけ。


 そして運がマイナスに振り切っているコトハがこうも黒リンゴを引き当てるのも珍しい。いや珍しいというよりきな臭い。まさか本当にズルしてるんじゃないか?


『リズ:ねえおにいちゃん、黒リンゴはつくることができないの? もしレシピとか知ってたら教えてほしいな……。

 コトハ:ちょっとリズ! ほんとにインチキしようとしているじゃない! 収集品をクラフトするなんてそんなのチートよチート!

 フィイ:われもあまり感心しないのだ。ここは正々堂々と己の運気を試そうではないか!』

 

 なんか……めんどくさいことになってきた。ちなみに黒リンゴは黒森地帯でのみ採集可能なためクラフトすることはできない。すまんがリズ、自力でどうにかしてくれ。


『リズ:あれ、おにいちゃん? 返信がないけど大丈夫なのかな。

 コトハ:アルトから返事がないなんて……もしかしたらレイドボス!? いいや違うわ、魔人が攻めてきたのかもしれないわね!

 フィイ:こうしてはいられないのだ! 一刻も早く戻らねばアルトくんが危ないのだ!』


 クソ、こいつら……この大忙しの時にチャットをポンポンと飛ばしてきやがって……!


 俺は今もなお絶賛奮闘中だ。馬鹿げた数のモンスターをひとりで処理して、かつ黒リンゴを探しては手で掴み、インベントリに納品している。とてもチャットなんてしている暇はない。それでも何とか返事をしないと……本当に勘違いされそうだ。


『アルト:おrなら大丈夫んndだからくぁwせ気にせ髄苦エスtおに集中しってくれt。魔人mっもレイドボスもきtいない9から』


 これ以上ない酷い誤字脱字誤変換まみれのフルコースで返信した。もう仕方ないよ仕方ない。これが俺の限界だ。片手で高速ブラインドタッチすればそりゃあこうなる。

 

『コトハ:ヤバイわよ! アルトの頭がついにおかしくなったわ!

 フィイ:きっと魔人に憑依ひょういされたに違いないのだ!

 リズ:急いでおにいちゃんをお払いしないと、わたし切幣きりぬさ作ってくるね!』


 残念なことに、死に物狂いで返信しても状況はちっともよくならない。むしろ悪化の一途いっとをたどっているようで……。


「だあああぁー! めんどくせー!!」


 俺はもう考えるのもやめてチャット画面を閉じた。

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