道中(大高原、黒森、海岸、浜辺)

158(テミティア大高原)


 テミティア大高原の適正Lvは100から130。駆け出しを卒業したくらいの冒険者がこぞって訪れるエリアだ。この日も多くの冒険者の姿が見える。目的はおおかたクエスト消化のためだろう。ああやってコツコツと経験値を稼いでいくんだ。


「俺たちのLvは175。ここら辺のモンスターじゃとてもレベリングにならないな。さっさと先に進みたいところだけど……」


 ちょうど進行方向に二組のパーティーが見える。どちらも口汚くののしい、いかにも犬猿けんえんの仲といった風だ。穏やかな狩場でトラブルがあったらしい。


「大の大人が喧嘩していったいどうしたのかしら。バルドレイヤの酔っ払いでももう少し品があるわよ」


 コトハがさも呆れたようにため息をつく。実際その通りなのが笑えない。


「ああいう輩にはあまり関わりたくはないのだ、きっとろくでもないことに決まってる」


「でも放っとくともっとおおきなめいわくになっちゃうかもだよ? ここはおにいちゃんにまかせてみようよ!」


 フィイとリズが議論を始めた。どうやら俺の知らないところで俺に任せる話になっているらしい。正直あまり介入したくない。


「パーティー決闘でも始まりそうな勢いだな。装備のロストで得をする冒険者はいないし、あいだに入ってあげた方がいいのかも」


「パーティー決闘……ってなに?」


 リズが目をぱちくりさせた。


「その名の通りパーティーvsパーティーで戦う多人数での決闘だよ。先にどちらかのパーティーメンバーが全滅した方の負け。普通の決闘と違って、勝つには連携が重要だ」


「面白そうね、やってやろうじゃない!」


 コトハが意気揚々いきようようと声を上げた。


「ああ、望むところ……ってやらねえよ!? 何で仲裁ちゅうさい役の俺たちが両パーティーを殲滅せんめつしようとしてるんだよ!」


「えっと、喧嘩両成敗ってやつ?」


「中世時代の法原則を持ち出してくるな。あと俺たちがやったら成敗じゃなくて蹂躙じゅうりんにしかならないからやめろ」


「分かった分かったわよ! ……ならわたしひとりだけで行ってく」


 コトハが背を向けて駆けだす。そうはさせない。


「おい待て」


「ひぐっ!!?」


 か細い首根っこを掴むと、潰れたカエルみたいな声が鳴った。


「いいかコトハ。ここはしんちょう~に事を運ぶんだ。火に油を注いだらダメなことくらいお前にも分かるだろ? 何より俺たちはギルドを持ってる。悪い評判は立たせたくない」


「な、なによ、暴力は全てを解決するって誰かも言ってたわよ!」


「ミステリー漫画に出てきそうなセリフだな。ジョブがバーサーカーだと頭もバーサク状態になってしまうなんて知らなかったよ」


「ふふん、コトハくんでは荷が重かろう。やはりここは聖職者であるわれが」


 突然ロッドを取り出したフィイが背を向ける。そうはさせん、させんぞ!


「おい待てムッツリシスター」


「うにゃああぁっ!!?」


 もう片方の手でフィイの首を掴む。なまじ猫みたいな悲鳴が上がった、やっぱり彼女の前世は猫かもしれない。


「な、なにをするのだアルトくん! 迷える者を導くことがわれの本分だというのに!」


「導いた先が冥界めいかいじゃ笑えないだろ。全員墓地送りにしようとするな」


「おにいちゃんおにいちゃん!」


 続けて名乗りを上げたのはギルド最年少のロリっ。頼むぞリズ、もう両の手が塞がっているんだ。これ以上面倒事は起こさないでくれ。


「あのね、リズは話をきいてみたらどうかなって思うの。だってあらそいはよくないもん。いまは仲が悪くてもきっと話したらよくなるよねって!」


 どうして最年少の彼女がこの三人の中で一番しっかりしているのか。思わず感動で涙が出そうになった。


「よしそれでいこう。リズはしっかりしていて偉いな」


「……」


 彼女を褒めた途端、両側から「ちょっとおかしくない?」みたいな目を向けられたが知らん、もう知らんよ。とりあえず彼らの話を聞いてみよう。

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