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「なあ君たち、揉めてるみたいだけどいったい何があったんだ?」


 声をかけると、辺りの喧騒けんそうさは沈黙へと変わる。両パーティーメンバーは俺たちをジッと睨んでいた。……ヘイトを買ってしまってなければいいが。


「誰だあんた、俺たちに用でもあんのかよ」


 右のパーティーリーダー、黒髪男のタウが剣呑けんのんな語調で答える。


「騒ぎが大きくなってたみたいだからさ、トラブルなんじゃないかと思って聞いてみたんだ。あまり大事になるのもお互いにとって良くないだろ」


「別に構わねえよ。俺たちぁもう腹立って仕方がねえんだ。なんならこいつらをぶちのめしてやろうと思っていたところさ」


 左のパーティーリーダー、スキンヘッド頭のテミルが吠えるとせっかく落ち着いた場がまたもや騒然そうぜんに。男たちは年甲斐としがいもなく口喧嘩をしている。


 こりゃダメかもしれない。


「だいたいここで先に狩ってたのは俺たちだ! してきやがって、この異常者どもが!!」


 タウはここぞとばかりにまくし立てる。


「だからたまたま流れ弾がいっちまっただけだろうがぁ! 横殴りだとか意味わかんねえ因縁いんねん付けてきやがってよぉムカつくぜ!」


 テミルもまた舌戦ぜっせんに応じる。


 この一件について少し分かってきたかもしれない。


「ねえアルト、横殴りってなにかしら。あまり聞き覚えのない言葉なんだけど」


 すかさずコトハが耳打ちしてきた。


「既に誰かが狩っているMOBを横から攻撃することだよ。狩場が被るとよくあることなんだけど、これをマナー違反とするかどうかはその人次第かな。思ってたより難しいトラブルみたいだ」


「そうなのね。でも酷いわ、そんな経験値泥棒みたいなことって。されたら気分が悪いじゃない」


「もちろん推奨されるような行為じゃないさ。でも仕様的にMOBの経験値はダメージを与えた割合分だけパーティーに入る仕組みになってるし全然うまみのある行為じゃない。むしろ効率が悪くなってお互い損だ。やる意味はあんまりない、以外ではな」


 とてつもなく程度の低い争いで、俺もふと息をついてしまう。


 そもそも横殴りって言葉自体、俺は嫌いなんだよな。何が横殴りだよ。そんなの狩場が被ったらどうしようもないじゃないか。


 これをマナー違反とするのなら全MAPをIDにするしかない。――嫌がらせ目的でやってるのなら話はまた別だけど。


「モンスターからのドロップアイテムはどうなるのだ。後から来たパーティーに横殴りされた場合は」


 今度はフィィが尋ねてきた。


「最後にどのパーティーが倒そうが、ドロップアイテムはFAエフエーを取ったパーティーに分配される。だからアイテムの横取りもできない」


「じゃあどうしてけんかになっちゃったのかな。横取りなんてする意味がないのに」


「――そうだろうよぉ! そんなことわざわざするかってんだ!」


 リズの呟きにテミルが便乗する。


 大声が怖かったのか彼女はビクッと体を震わせて俺の後ろに隠れてしまった。周りの冒険者たちも不安そうな目で見ている。これは早いとこ終息しゅうそくさせた方がいいな。


「こらこらいがみ合いはその辺にしておけよ。だいいち狩場が被ったのはたまたまなんだろ。ならお互いに謝ったらいい話じゃないか。言い合っている方が時間の無駄だぞ」


 これには返す言葉もないのか、タウとテミルは言いよどんでいる。


「う、うるせえ! 意地があんだよ男の子にはな! こうなったら決闘でも何でもしねえと腹の虫がおさまらねえ!」


 タウが直剣を構えて言う。いよいよ戦闘勃発ぼっぱつって感じだ。


「やめておけお前には速さが足りない。――ていうか本当に決闘するつもりなのか。言っておくけどやめといた方がいい。負けたら大損だし、お前たちは多くの冒険者に見られてる。悪い噂なんて立てられたくないだろ」


「そんなの俺たちの勝手だろうよ。いいぜ喧嘩だってんなら上等だ、ボコボコに叩きのめして二度と生意気な口を利けなくしてしてやる!」


 テミルが言うとそのパーティーメンバーたちも『オオォ!』と声を張り上げる。


 タウ陣営とテミル陣営、数は互いに四対四。平均Lvは120と互角な条件がそろっている。これは本格的にパーティー決闘が始まりそうだ。


 善処はしてみたけど、彼らの勢いは止まりそうもない。いっそのこと成り行きに任せてみよう。コトハもフィイもパーティー決闘は初めて目にするようだしいい勉強になるかもしれない。

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