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「とにかく、それほど奴らは魔王さまを倒されたくないらしいな。謎は多いけど、親玉を倒せばいずれ分かることだろう」


 俺の意見にみんなが頷く。真実がどうであれ、俺たちのやるべきことは変わらないんだ。


「しかし、ゆめゆめ忘れぬことだな。君は命を狙われているんだということを。いつどこで魔人どもに襲われたとしても不思議でない」


 パーシヴァルが厳かに呟く。


 彼の提言はもっともだ。昨日の一件からして、エリアにキルゾーンを適用するかどうかは魔人が持っているみたいだし。不意打ちとかには気を付けないと。


「――それでアルトさんたちはこれからどうするんですか。都市戦も終わったことですし、また各々動き出すとは思うのですが」


 議論が終わった様子を見て、エレンが今後について切り出した。


「俺たちはレベリングをしつつ各エリアの攻略かな。エレンは?」


「私も似たような感じですね。早いところレベル上げて三次職にならないといけませんから。魔人と渡り合うためにも準備をしておかないと」


「渡り合うためにもってことは……エレンも一緒に戦ってくれるのか!?」


「もちろん必要であればその時は。つい先日、共に戦った仲じゃないですか、いまさら知らない振りなんてできませんよ。少なくとも私はあなたのことを友人だと思っていますから。何より私たちは同じギルドメンバーです、困っている時は助けにいきますよ」


 エレンがにこりと微笑む。


 確かに彼はギルメンだ。ギルドハウスに入るため、パーシヴァルと一緒にギルド招待したらすんなり加入してくれた。けどまさかそう言ってくれるなんて、嬉しい誤算だ。


「緊急時は私も加勢しよう。チャットで呼びかけてもらって構わん」


 パーシヴァルもまた声を上げた。


「いいんですか、パーシヴァルさんは騎士団長としての職務があるんじゃ」


「あるにはあるが、モンスターの急襲でもなければそれほどの重責は負っていない。都市が平穏な状態であるのなら、駆けつけることは可能だ」


「それは頼もしいです。――本当にありがとう二人とも」


 これで共に戦ってくれる仲間は七人。魔人があとどれだけいるのかは分からないけど、かなり心強くなった。


「俺たちも頑張らないとな。まだまだ先のエリアが続いていることだし」


 エレンとパーシヴァルの背中を見送りながら、席を立つ。庭に植えたギルドツリーはすくすくと育っており膝上くらいまで枝葉を伸ばしていた。成長が早い。


 この分だと二、三週間後には収穫できるだろう。


「もうこんなに伸びてるんだね。前はこんなにちいさかったのに」


 リズが身振り手振りしながら言った。


「ギルドツリーはモンスターを倒したりLvがあがったり、俺たちの働きに合わせて成長するんだ。エレンも加わったことだし、これからはもっと早く育つだろう」


「そう言えばお兄さまはどこでレベリングをするのだ? 我はソロであるがゆえ、できるだけ狩場被りは避けたいと思っている」


 今度はペルが尋ねてきた。


「そうだなあ……本当ならくろ薔薇ばら教会に行きたかったけど、キルゾーンが適用されているみたいだし……しばらくは道中のモンスターを倒していくよ。次の都市に向かいたいから北上していこうかな」


「分かったのだ! 三次職転職の時も近い……みなの健闘を祈っているぞ! それではさらばなのだ!」


 フハハハと取ってつけたような笑い声を上げながら、ペルがポータルの方へと向かっていく。早速レベリングに旅立つようだ。


 彼女は多数の眷属けんぞくを召喚するネクロマンサー。ソロでもなんら問題は無いと思うが……心配なのでいちおう門限を言い渡しておいた。夜にはギルドハウスに帰ってくるはず。


「俺たちも負けてられない、早く新しい地域に行かないとな」


 呼びかけると、コトハ、フィイ、リズが賛同する。みんな準備万端なようだ。


「それじゃあ行こう。次の都市――カルテガを目指して!」


 ギルドハウスを出て北に向かう。


 監視場を抜けた先、俺たちはテミティア大高原へと到着した。

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