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「そうなると、ますます魔王を倒さなくちゃいけないな。人々の暮らしをおびやかして多くのモンスターを生み出している諸悪の根源なんだ。そいつを倒さずして俺たちに平和はあり得ない」


「魔王を倒す……か」


 まるでいぶかしいものでも見るかのように、カーラの目つきは細くなった。


「それはとても良い理想だが、魔王の正体は未だ誰も掴めておらぬ。居るとはされておるが、霧のような存在だ、もはや居るかどうかも疑わしい。そして魔王の元に辿り着くには、凶悪な魔人どもを撃破しなくてはならないという。艱難かんなん多き道だ」


 カーラがやれやれと溜め息をつく。


 この都市の王さまですら魔王の所在を知らないのなら、この付近の地域にはあまり期待できないな。やはり最終盤の地域に潜んでいるんだろう。ともかくとして、まだまだ強くならないと。


「――話を戻すが、経緯としてはそのような感じだ。騎士団に入隊すればもれなく祝い金も付いてくる。とても悪い話ではないと思うのだが、さてアルトくんたちはどうするか」


 カーラはインベントリから100mと表示された小袋を取り出した。


 一億ルクスか、なかなかの大金だ。普通に暮らすだけなら騎士団に入隊することで安定した生活を過ごすことができるだろう。


 だけど、俺は目的を見失っちゃいない。魔王を討ち取ることが俺の最終目標なんだ。


「条件は良いし、人々を守るという大義名分も興味はあります。だけどすみません、それは俺たちのゴールではないですから。せっかくのお声がけに応えられなくて申し訳ありませんが、お断りいたします」


「ふむ……そうか」


 カーラはあごに手をやり、しげしげと俺を見つめている。


 もし断って不敬罪と言い渡されたらどうしたものかと考えていたが、その心配はなさそうだ。むしろ彼は納得いったように首肯しゅこうしている。


「冒険者とは元来、そういう生き物だからな。大望を果たすために止まることなくその生涯を駆け抜けるのだ。引き留めてすまなかったな、これからも君たちの活躍に期待しているよ」


 カーラが和やかに微笑みかける。


 一時はどうなることかと思いきや、何とか衝突もなく穏便に済ませられたようだ。


「ところでアルトくんは来週の〝都市戦〟に出場するのかね」


「は……都市戦?」


「バルドレイヤでナンバーワンを決める決闘のことだよ。この都市に大規模な決闘場があるのは知っているだろう。そこで冒険者が腕前を競い合うというわけだ。ルールはトーナメント形式の一発勝負、報酬も豪華で魅力的な物が多い。開催は半年に一度限りなのだが、せっかく都市に滞在しているんだ。この機会にどうかと思ってね」


「そう言えば……ありましたねそういうの」


 闘争都市で最も決闘が強いプレイヤーを決めるお祭りイベント、都市戦。


 確かADRICAでも半年に一回行われているイベントだった。優勝すれば、割と高額なルクスや装備品が手に入るし、参加しておいて損は無いか。


「是非、参加したいと思います」


「よしきた。それじゃあ手続きはこちらから済ませておこう。詳細な日程は後ほど送る。是非とも奮闘してくれたまえ」


 長かった会話もこれにて終了。俺たちは王室を出て都市へと戻った。


 都市戦までは時間があるし、その間に上級コロシアムでレベルを上げるだけ上げておこう。一週間もあれば170を超えているくらいにはなるはずだ。

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