087


「――それにしても一段と名が売れちゃったわね。もうこの都市でわたしたちを知らない人はいないんじゃないかしら」


 宿屋に到着したコトハが、プロフィールを展開しながら言った。ベッドに横たわりながら、ふふんとご機嫌に鼻を鳴らしている。


 彼女のフレンド情報を見るとそこには、山のようにストックされているフレンド申請が。フィイもまた同様だ。上級コロシアムを突破した彼女たちも、バルドレイヤで一躍有名人となったわけだ。


「まさか一度で30Lvもあがるとは……とんでもない爆速レベリングなのだ。悠長ゆうちょうにクエストをこなしていれば、この十分の一も上がらないだろう。驚嘆きょうたんに値する……」


 フィイがぷるぷると震えながらプロフィールを閲覧している。


 今日の朝まで100Lvだった俺たちは、コロシアム終了時点で130Lvに到達。


 強くなればなった分だけ、コロシアム周回が楽になる。ステータスは上がるしスキルも習得できて、明日からはより早く攻略できるようになるだろう。


「都市戦まで一週間の猶予がある。それまでは毎日コロシアムの周回かな。稼いだルクスで少しずつ装備を更新していったらいい」


「それはつまり、またオークションをするのだな。……うむ、であれば装備の売買はわれに任せたまえよ。こう見えて競り合いは得意なのだ」


 それらしい口実を付けているフィイは、たぶんオークション画面で遊びたいだけなんだろうな。昼間、楽しそうにしてたし。


「じゃあエンチャントはわたしに任せて、かならず最高品質のオプションを引き当ててみせるから!」


 今度はコトハが名乗りを上げた。


「いやダメだ。エンチャもフィイに任せるからお前は大人しくしていろ」


「なんで、なんでよ!」


「だって今日やったら防御力+1とかいうゴミオプを引いただろ。コトハとフィイじゃあ持ってるモノが違うんだよ。……あ、モノっていうのは運のことだから、そんなに怖い顔をしないでくれ」


「わたし、もっと力になりたかったのに……」


 コトハがしゅん、と肩を落とす。


 少し俺の主張を勘違いしていそうだからフォローしておくか。


「別に気にすることはない、適材適所って言葉があるだろ。コトハはコトハのできることをしてくれたらいいから。お前はかなり反応が良いからな、前衛に立って敵を倒すのは、フィイにはできないことだ。明日のコロシアムも期待してるよ」


「え、あ……うん、分かった。わたし明日も頑張るね!」


 元気のいい返事と共に、コトハが明るい笑みを取り戻した。


 やっぱり彼女はこうじゃなくっちゃな。


「えーっと、この30ポイントはどれに振ろうかしら。まだ体力が欲しい気はするけど、そろそろ筋力も上げたいし……」


 コトハはステータス画面と睨めっこをしている。レベリングで上がった分のポイントをどれに振るかお悩みのようだ。


「待ちたまえよコトハくん、そう言えば知力にまったくポイントを振っていないが、これではクリティカルが発生しないと思うのだ」


 それを横から眺めてはちょっかいをかけるフィイ。


「大丈夫、わたしはクリティカルじゃなくて、素のダメージでモンスターをやっつけていくの――って待って勝手に触らないで、それはわたしの、わたしのポイントなんだからぁ!」


 そして必死にわちゃわちゃと抵抗するコトハ。知り合った時と比べると、すっかり仲良しって感じだな。二人とも良好な関係を築いてくれて何よりだ。


「ま、待ちたまえコトハくん、そこは、やめ……」


「ほらほら、わたしの貴重なステータスポイントを知力に1振った罪は重いわよ!」


「悪かったのだ、謝るから……や、やめっ……やめるのだあぁ!」


 コトハが反撃とばかりに、手をわきわきさせている。おぉ……ややスキンシップが過ぎるような気もするけど、目の保養になるので口は出すまい。


「アルトくん、アルトくん、どうかフィイを助けてはくれないだろうか」


 よほど余裕がないのか、フィイの一人称がまたもや自分の名前になっている。おまけに赤面で涙目。可愛いので放っておこう。


「すまないフィイ、俺の母国じゃあ女の子の間に割って入る男は絶対に殺したるランサーされてしまうんだ」


「な、何をわけのわからないことを言っているのだ! はやくフィイを助け――」


「まったくどうしたらこんなに実るのかしら。これも女神さまのご加護ってわけ?」


「やっ、やめっ……やめろといっているのだあぁぁ!」


 金髪少女の儚い絶叫が鳴り響く。


 彼女たちの仲睦なかむつまじい様子はその後もしばし続いた。

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