085


「あの、騎士団にってどういうことですか。そもそも俺たちは冒険者なんで、騎士団が何なのかよく分かっていないんですけど」


「簡単なことだ。メルクトリたちがやっているように外部から訪れる冒険者の選別を行い、時には迫りくる脅威を打ち払う。どうだ、そう難しい話ではないだろう」


「外部からの脅威って……モンスターのことでしょうか」


「もちろんそうだとも。近頃は物騒でな、各都市がモンスターに襲われる頻度が高くなっているようなのだ。都市で暮らす民たちも多い。を出さないためにも、戦力は増強しておくにこしたことはないという話だ」


「……なるほど」


 王さまの話を聞くに、俺たちはヘッドハンティングをされたというわけか。


 確かにゲーム内でもそういう設定はあった。騎士団は外部からの脅威を防ぐためにあるのだとかなんとか。だがそれはあくまで設定上の話だ。


 リアルタイムでモンスターたちが各都市を襲うなんて演出は当然ないし、騎士団がモンスターと戦っていた場面も見たことない。


 しかしこの世界ではその設定がリアルに適用されて……実際にモンスターが街に攻め入ることもあるらしい。もしそうなった場合……放っておくと人は死ぬのか?


 無いとはいいきれない。どんな優しいゲームにも特定条件下でのみ死亡する演出が、あるにはあるからだ。たとえば撃破されたラスボスが消滅したり、モンスターの襲撃にあった村が悲惨なことになっているシーンなど、その世界に死という概念がなくとも、システムに殺されるケースは普通に見られる。


 俺はこの世界がゲームのADRICAだと睨んではいる。が、ゲームだからと言って絶対に誰も死なないかと言われれば判然はんぜんとしない。これまで数多の予期せぬイベントを、身をもって味わってきたからだ。


 よってこの世界に俺の知らない仕様が追加されていて、特定条件下で誰かが死ぬことも想像できてしまう。……誰かが死ぬのは嫌だな。話してる感じ的に、みんなNPCじゃないし。


「どうしたのだアルトくん、随分と深刻そうな顔つきだが」


「いや、何でもないです。――ちなみに直近だといつごろ襲撃がありましたか」


「先週の月曜日だ。突然ダークエルフの軍勢が押し寄せてきたのだが、さすがは闘争都市の精鋭たちだ。犠牲者は零のまま、ことごとくを討ち取ってやったぞ」


「まさか、ダークエルフが!?」


 つい声音を荒げてしまったところに、コトハが耳打ちをしてくる。


「どうしたの、アルトが取り乱すなんて」


「すまん、つい……何しろ敵はLv200のモンスターだ。バルドレイヤが弱小都市ではないにしろ、手に余る相手だと思ったんだ。ここの都市はLv100から170くらいの冒険者が多いからな。幸い快勝してくれたようだが」


「Lv200ってそんな――」


 コトハが絶句する。


 基本的によっぽどのPSでも持ってなければ、Lv差が10あると勝負にならない。それを彼女も理解したのだろう。つまり、高くてもLv170の冒険者が滞在する都市にLv200のモンスターを当てるなんて、あまりにも非道なんだ。


、な。あいにく〝王の剣〟まではその範疇はんちゅうに収まらんよ」


 とここで耳ざとく聞き取ったカーラが横槍を挟んだ。


「この先の地域を知っているか? 〝パーシヴァルの監視場〟を超えた先には高レベルのモンスターたちが跋扈ばっこしている。そも、コロシアムにせよLv170のモンスターをいったい誰が調達してきていると思っておるのだ。心配せずとも、Lv200ごときのモンスターでは騎士団には千歩せんぽも遠い」


 確かに……合理的な意見だ。


 騎士団が弱かったらコロシアムへのモンスター調達は不可能。


 ん、待てよ? じゃあこいつらは今何レベルなんだ――。



■プロフィール詳細

 王の剣 騎士団長メルクトリ

 Lv220 次のLvまで29,800,000経験値

 職業 グラディウス[内訳:ファイター ドラグーン グラディウス]

 体力123 筋力50 魔力1 知力50 幸運1

 装備 オリハルコンヘルム オリハルコンアーム オリハルコンプレート……



 何となく騎士団長さまのプロフを確認したら、それはもうご立派だった。


 ……は? 強くね?


 そもそも以前は、メルクトリという人物がいることは知っていたがプロフを覗くことなんて仕様上できなかった。


 なるほど、攻め入るモンスターを打ちのめす騎士団にリアル補正をかけたらこうなるのか。そりゃあ弱いわけないよな。

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