067


「で、これが例の女神像か」


 二階の奥、祭壇上さいだんじょうにはそれらしき彫刻ちょうこくが設置されていた。


「彼女は戦神ともおそれられた女神さまだ。好んで強者と戦い、そのすべてを討ち取ってきたという伝承でんしょうが残されている」


「フィイはこういうことに詳しいんだな。おかげでまた新たな知識が得られた、ありがとう」


 お礼にフィイの小さな頭を撫で回す。背丈が低いということもあって、彼女の頭はいつもちょうどいい高さにあった。


「う、うむ……また頼りにしていい、われの知っていることなら、なんでも教える」


「ああ、その時はまたお願いするよ」


 どうしてフィイが頬を赤らめているのかはさておき、お待ちかね二次転職の時間がやってきた。


 前回同様、女神像の前で黙して祈りを捧げる。


 見知った電子パネルはその直後に現れた。


〝ようこそ冒険者さま。新たな力の獲得が可能です。転職を行いますか?〟

《YES/NO》


 YESを押下。


〝ご希望の職業を一覧から選択してください〟


《ミストルテイン》


 狙い通り、今回も隠しジョブが発生。


 弓矢と剣、二つの顔を持つ北欧神話のアイテム名にちなんだジョブは、その由来に等しく、すべてのアーチャー系列スキルを習得可能だ。


 条件はLv100時点で、体力、知力、幸運の数値が等しいことと前職がレヴァーテインであること。これもまたWIKIウィキには載っていない秘密のジョブだ。


「――そっちもちょうど終わったみたいだな」


 二人のプロフィールを確認すると、そこには二次転職後のスキル名が記されていた。


 コトハは二刀を操る狂戦士〝バーサーカー〟に、


 フィイは神聖なる魔法使い〝ホーリーマスター〟に転職していた。


「アルトも予定通り済んだみたいね。職業名は〝ミストルテイン〟……また知らないジョブだわ、でもどうせ強いんでしょ?」


「まあな。全てのアーチャー系列スキルを習得できる」


「それはまたとんでもない性能だ。前衛も後衛も、アルトくんひとりで完結してしまうのではないだろうか……」


「そんなことない、二人にはいつも助かってるよ。感謝してる」


 本心からの礼を伝えると、フィイは口角を緩めて、コトハはまだなにか言いたそうにうなっている。彼女に関してはいつものことだから放っておこう。


「今日はかなり遅くなっちゃったな。今から宿屋でも探して明日にはIDに――」


 その時。


『オオオオオオォォ!!』


 やにわに鳴り響いた男たちの歓声かんせいが集会場を震撼しんかんさせる。


 どうやら一階で何かが起きたようだ。


「な、なになに? なにがあったの?」


「あまり大声を出さないで欲しいのだ。驚いてしまうではないか」


 あまりに突然の出来事で、怖がるコトハとフィイが抱き着いてきた。あ、暑苦しいのだが……。


「たぶんさっきの騒ぎだろうな。ほら、二人の男がいがみあってただろ? ウルクともう一人――ルドラとかいう男か。その決闘が決着したみたいだぞ。まあ結果は見るまでもないだろうが」


 一階を見下ろすと、そこには床に突っ伏したウルクと、高笑いを決めているルドラの姿が。そうだろうなとは思ったけど、これでウルクはまたデスペナルティによって装備やアイテム、経験値とルクスを失ったわけか。冒険者業は廃業になるかもしれないな。


「こいつ――卑劣ひれつなことを! 今すぐにウルクの装備を返せ!!」


 彼のパーティーメンバーである男がえた。


「馬鹿が、そんなことするわけねえだろうよ。返してほしけりゃあ力づくで取り返すんだな。お前も〝決闘〟するってんなら、おうともよ、堂々と受けて立つぜ」


「くっ、くそ、こいつ……!」


 さすがに自分たちでは敵わないとわきまえているのか、彼のパーティーメンバーはすんでのところで踏みとどまっている。


 ルドラとかいう男は――Lv150、職業ファイター系列のハイランダー、装備ミスリル防具一式と、まあまあな中級冒険者だ。いやこの都市じゃあかなりの強者に分類されるかもしれない。


「あの男気に食わないわ。格下の冒険者にふっかけて、装備品をぶんどるだなんて」


 コトハが下をねめつけて言った。


「まあなあ……胸糞は悪いだろうけど、この都市じゃあんなのごく普通の出来事さ。強者も弱者も常に戦いを強いられている。闘争都市っていう名称はだてじゃない」


「……そうね。わたしもああならないように気を付けないと」

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