066
「クソ、クソ……今日こそは周回できると思ったのによ。コロシアムの難易度を〝中級〟に上げたのは間違いだったっていうのか? そんなはずは……っ!」
長槍を背負った男、ウルクが力任せにテーブルを叩く。
「まあまあ落ち着けよウルク」
「そうよまた明日挑めばいいわ」
彼のパーティーメンバーとおぼしき冒険者がなだめているが、ウルクの怒りは一向に収まる気配がない。……さてはあいつ、盛大に
「アルトくん、どうして彼はそれほど
言いながらフィイが体をすり寄せてきた。わずかに体が震えているのが分かる。怒り狂う男に怖がっているんだろう。
「失敗しただけならまだいいさ。だけどたぶんあれはそうじゃない。確実に一度はダウンしている」
「ダウンとはHPが尽きることだろう? しかし何もあそこまで怒鳴る必要は……」
「無いさ。いくらダウンしても気絶するのが関の山で、特にこれといったデメリットは存在しない。――だがそれはLv100未満の場合の話だ。100Lv以上になると、セーフティーが解除されて〝デスペナルティ〟が開放される」
「デスペナルティ、それって?」
首をかしげるコトハとフィイのために、電子パネルからヘルプを展開する。
理解するには、これを見せるのが一番早いだろう。
〝冒険者の手引き:デスペナルティについて
冒険者のLvが100に到達した時、デスペナルティが開放される。
デスペナルティは冒険者のHPが0になった時に効果を発動する。
所有者のルクスおよび、経験値量の10%を消失、さらに一定確率で装備品のドロップ、
インベントリからランダムなアイテムを全体の20%ドロップ、
行動不能デバフ12時間付与〟
『……』
サアっと音が鳴るくらい、みるみるうちに顔から血の気が引いていくコトハとフィイ。
これで彼女たちもどれだけデスペナルティが恐ろしいか分かったようだ。
「まだ半人前のうちはいくらダウンしても問題ない、いわゆる親切設計になっているが、ここから先は厳しい世界が待っている。HPが尽きる度に全てを失うと言っても
「そんなのあんまりだわ、装備もアイテムもなくしちゃうだなんて……運が悪いと一度で何もかも終わりになっちゃいそうね」
この時ばかりは、コトハの予想は正しかった。
「ああ、実際デスペナルティによって装備を失い、やめていく冒険者はかなり多い。そしてダウンするというのは決闘で力尽きた時にも適用される。つまり――敗北は許されないということだ」
息を呑んで押し黙る二人は一転、
いよいよ彼の
「とは言っても、ドロップした装備やアイテムは回収できるから、その場に他のパーティーメンバーが残っていれば問題ない。最悪なのはパーティー丸ごと潰れることだ。もしそうなった場合、どうしようもない」
「どうして? アイテムは残ったままじゃないの?」
「残るわけがないさ。ダウンして十二時間も動けないんだぞ、他の冒険者にすべて取っていかれておしまいだ」
「お、追いはぎってこと!? そんなのいくら何でも――」
「酷くはない。それが世界の〝仕様〟だからな。悪いのは力尽きた弱者にある、誰も都合よく助けてはくれない。……ああ、本当にうんざりするくらい弱肉強食の世界だよ」
二人にデスペナの説明も終わったところで、受付嬢にカウンターから声を掛けられる。ようやくギルドの登録手続きが済んだようだ。
「――たかが中級コロシアムも周れねえなんて情けねえな」
「何だと貴様、この俺を
「おうともよ。雑魚に雑魚って言って何が悪いんだ? 気に入らねえなら掛かって来いよ」
「いいだろうその挑発に乗ってやる――」
「やめてウルク、今のあなたじゃ!」
その一方で、先ほどのパーティーは柄の悪い男に絡まれていた。ウルクは短気なのか、Lv差が20もある男の喧嘩を買うらしい。あーあ、カモられてんなあ……。
「なるほどね、ああやって自分より弱い相手をみつけて、装備品をふんだくろうってわけ。もうほんとに最悪、見ていて気分が悪いわ」
コトハが男の
「われもそう思うのだ……まさに弱肉強食である……」
フィイもまた
だけどあれはここじゃ王道の手段だ。俺たちはまだ二次転職も終わっていないことだし、できるだけ首は突っ込まないでおこう。
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