バルドレイヤ
065
都市の空が茜色に染まる
「わたし、次はどんなジョブに転職しちゃおうかしら」
なんて言いながら、楽しげな鼻歌を鳴らして
彼女には早いうちに現実を教えてやった方がいいのかもしれない。
「ああ、次の転職なんだけど、もう選択肢は限られてるぞ。多くの派生先の中から選べるのは一次転職だけの話だ」
「え、ちょ、はあ!? そんなの聞いてないんだけど!」
「そりゃあ言ってないからな」
「む、むむむむむ……」
どうしてそう苦虫を食い潰したような顔をするのだろうか。
むしろ転職先のジョブが
「とは言え、一応名称は変わるけどな。ストライフは〝バーサーカー〟に、アークマスターは〝ホーリーマスター〟に転職する。転職が終われば、より強力なスキルが習得できるんだぞ。だからそんな顔するなって」
「……そうね。強くなれるのならなんでもいいわ。……あれ? でもそれだったらスキルツリーはどうなるわけ?」
「拡張されるよ。今よりもっと大きなツリーになって、強いスキルが格段に増える」
「なら問題は無いわね。さあ早くギルドに行きましょ!」
ギルドは都市の中心部にあるため、到着したころには空はすっかり暗くなっていた。
明日は早速、新たなインスタンスダンジョン〝コロシアム〟を周りたい。今日は多少、無茶をしてでも用事を済ませよう。
「――俺とこっちの二人の計三名だ。ギルドへの登録を頼む」
カウンターにいる受付嬢に用件を伝える。
ノルナリヤと同じく、二次転職をするには二階へと上がり女神像へと祈る必要があった。そして上は例の如く会員制。つまり転職したければ金を払えという利権に屈さなければならないのだが、三人分となるとギルドへの登録手数料もまあまあなわけで……。
「それではお会計、百五十万ルクスを
とまあ、これまでのID周回で稼いだルクスのほとんどをもっていかれてしまった。これからまた稼げばいいか。あとで不要な装備を売り払おう。
「百五十万とは、少々高すぎるのではないか」
「たったこれっぽっち? 安く済んでラッキーね」
支払った金額を見て、まったく異なる意見を唱えるフィイとコトハ。
たぶん出せと言えばあっさりとコトハは出してくれるのだろうが、こいつに貸しを作るのはどうにも
「あとはここで待っていれば、そのうち登録が完了するだろう。何とか今日中には転職できそうだ」
ふと目を向けてみれば、時計の針はすっかり
都市のギルドというだけあって、ここの営業時間は二十四時。よって俺たちがそう時間に気を取られる心配はないのだが、ギルド運営の雇用体制が気になるところだ。
さすがの俺も彼女たちの勤務形態までは知らない。ホワイトであることを願おう。
「それにしても随分と騒がしいところなのね。まるで昼間のようじゃない」
コトハが辺りを見渡して言った。
「バルドレイヤのギルドは、一階に受付と食堂が併設されているからな。そしてこの時間だ、治安がいいわけもない」
わざわざ探すまでもなく、周りにはろくでもない飲んだくれが見受けられた。
ある者はクエスト成功の祝杯を、ある者はクエスト失敗のやけ酒をキメている。
そしてここは誰もが強者である自覚を持つ、プライドの高き冒険者たちの集会場。
嫌な予感を感じ取るまでもなく、目の先にはトラブルが転がっていた。
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