064


「さて、着いたはいいが……果たして開けてくれるかどうか」


 眼前にはまるで巨人専用なのではないかとすら思える正門が、そびえ立っている。


 毎度思うが、どうしてファンタジー風の門というのはことごとくデカイのだろう。


「ねえアルト、ここはいったい何なの? どこかの入口のように見えるけど……」


「ここは〝メルクトリの監視場〟っていう冒険者をふるいにかける場所だ。フィイがまえ言ってたように、ここには一定の強さを持った者じゃないと立ち入らせてもらえない。ほら、あそこに監視塔が見えるだろ? 俺たちを都市に招きいれるかどうか、プロフを確認してるはずだ」


 正門の奥には左右ひとつずつ監視塔が設置されている。


 その中にいる監視役が、門を開けるかどうか判断するのだが――。


「よし、うまくいったな」


 ゴゴゴ、と地響きを上げながらついに大門が動きだした。


 どうやらフラグは立っていたらしい。


「さすがはアルトくん、読み通りの手筈てはずだな。まさかLv100に到達していればよいとは」


「アルトは何でも知っているものね。……あれ、でも待って。門の奥から変な人たちが出てきたわよ。いったい何のつもりなのかしら」


 正門が開き切った後、その通りから姿を見せたのは、全身に鎧をまとった騎士さま一隊。


 あれが数多の凶悪モンスターたちを退ける、闘争都市の守護者たちだ。


「あの騎士団が都市を守護する精鋭部隊〝王のつるぎ〟、先祖代々この土地を守り、地位を築き上げてきた王の従者たちだ」


「へえぇ、大層なものじゃない。でもわたし身分の高い人って苦手なのよね。なんか偉そうっていうか堅苦しい感じがしない?」


 それはお前が言うことなのか。身分で言えばどこぞの国のご令嬢である彼女の方がよほど高いと思うのだが、ここは突っ込むべきか否か。


「――お初にお目にかかる冒険者諸君。我らは闘争都市バルドレイヤの守護者〝王の剣〟、見たところ都市へと向かいたいようだが、要件を尋ねてもよいかね」


 騎士団を率いている人物――メルクトリが口火を切った。


「俺たちがバルドレイヤに行くのは強くなるためだ。より強い奴らと戦って、強くなりたい、そしていずれは魔王を討伐する。そのためにはどうしてもここを通る必要があるんだ」


「魔王……魔王か。それは良い心意気だな、ふむ……」


 メルクトリは俺たちのプロフィールをまじまじと確認している。


 Lv、ステータス、業績、転職状況、どれをとってみても〝弱者〟には間違いなく分類されない。おそらくこのまま突破できるだろうと、そう思っていたのだが。


「ううーむ、そうか……実績は十二分だがしかし……」


 騎士団長はどうしたものかとうなる一方だった。


 想定していた展開と違うが……またしても俺の知らない何かが起きているのか。


「どうしたんですか? 俺たちのどこかに至らない点でも?」


「いやそうではないんだ。ただ最近はモンスターの動きが怪しくてな。人に擬態ぎたいして街を破壊するモンスターがいるようなのだ。もっともプロフィール情報は偽造不可能なため、君たちを恐れる道理はないのだが」


「人に擬態したモンスター……」


 ふとノルナリヤでの一件を思い返す。


 確かあの街でも女神像が破壊されたとか何とか騒ぎがあった。確かにMOBの中には、変身能力を持っているモンスターがいるにはいるが、いまいち分からないのは、そいつの目的だ。


 転職に必要な女神像を破壊したあたり、狙いは冒険者の弱体化だろうか。もっとも、像が瓦礫がれきと化した状態でも祈れば転職できたため、もし狙いがそうだとしたら、徒労とろうだったのは間違いない。


「考えても仕方ないな。ひとまず君たちのプロフィールは確認できた。実績のある冒険者を跳ねのける理由はない。――さあ通れ、君たちを都市へと歓迎しようじゃないか!」


 ひと悶着あったものの、無事にメルクトリの承諾が得られた。


 正門を通り抜けて、騎士団の駐屯地ちゅうとんちと化した平野を超える。


 いよいよ全貌が明らかになってきた都市の街並み。ノルナリヤやアウラとは比較にならない商店、人だかりが視界を覆い尽くす。


 隣で楽しげに頬を緩ませているコトハとフィイ。


 俺たちは強者のみが集う都市、バルドレイヤへと踏み入った。

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