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「アルトくんは彼女がどこまでやれると思っているのだ?」


 コトハが下のフロアで奮闘ふんとうしている最中さなか、ふとフィイがそんなことを聞いてきた。


「そうだなあ……結局はプレイング次第だけど、うまくいけば突破できるんじゃないかって思ってるよ。ほら、あいつ火力だけは十分だし」


「確かに、あのLvで筋力95は化け物だ。バフの恩恵込みとは言え、通常攻撃一発で475ダメージ。モンスターのHPが一体1,500であることを考慮すると、目を疑う火力だな」


 インスタンスダンジョン〝ヴァーリルの谷底〟、そのB1では大斧をたずさえたモンスター、〝谷底のミノタウロス〟が二十体ほどひしめきあっている。


 次のフロアを開放するには全て殲滅せんめつする必要があり、冒険者は逃げ場のない空間で立ち向かわなければならない。


 二十もの牛頭モンスターをまとめて相手にするのは困難だろう。実際初めてIDに挑戦する冒険者からは「鬼畜」だの「無理ゲー」だのと大不評だ。


 押し寄せるモンスターの大群にどう立ち回っていいか、初見では分からない者が大半。――それなのに、初めてであそこまでやれている彼女は、立派だという他ない。


 流石は何十回も死にまくっただけはあるな。コトハは寡戦かせんでの立ち回りをしっかりと身に着けていた。


「おお、コトハくん上手いではないか。降りてからまずは回避に徹底てっていし、モンスターのターゲットを全て集める。それから時計回りに走り続けて、モンスターの群をたばね上げるとは、かなりこなれた動きではないか」



「何回も失敗して学んだんだろう。多数戦での難しさは、あらゆる方向からバラバラのタイミングで攻撃されることだからな。つまり、ああやってモンスターを同じ方向にまとめていれば怖くない。警戒けいかいするのも先頭に立っているMOBだけでいいしな。スキルもまとめてダメージが入るし、効率がいい」



 走り回るコトハの後続には、二十のミノタウロスが、鬼ごっこでもするかのように、きっちり足並みを揃えて連なっていた。


 特殊なモンスターでもない限り、突然、行動パターンを変えることはないからな。あいつらはプレイヤーを発見したら、ただ追いかけてレンジ内に到達すると攻撃を仕掛けるBOTに過ぎない。あれがMOBのシステムを利用した、正しい立ち回りだ。


「――やあああぁぁ!!」


 ミノタウロスを束ね終わったところで、いよいよコトハが攻撃に転じた。


 モンスターの攻撃――大斧の振り降ろしを回避した後に、すぐさま二刀で切り刻む。


 一発475ダメージ、左右で振ると950ダメージ。


 コトハは二刀をたった二振りしただけで、あっさりとミノタウロスを溶かしていった。


 いくら防御力のないモンスターとは言え、火力が高すぎないだろうか。同Lv帯の冒険者が使うスキルより強い通常攻撃って何だよ。


「まあ倒せているならいいか……COMBOコンボ数も溜まってきたし、そろそろ頃合いだな」


 コトハの頭上に表示されているCOMBO数は、現時点で20。


 その数字はだいだい色に点滅している。


 スキル〝百花繚乱ひゃっかりょうらん〟による強化攻撃が行える合図だ。


「もういいぞコトハ、スキルを撃ってみろ!」


 こくりと頷いて、ミノタウロスの群から距離を取る彼女。落ち着いて放つために、一度だけ深く呼吸をすると、眼前に迫りくるモンスターの群をにらえた。


 そして彼女は二刀を振り払う。


 まるで大気を切り裂かんとばかりに、交差させていた両手を横に一閃。その瞬間――


〝斬〟


 と表示されたテクスチャーに合わせて真黒まこくの斬撃がフロアに生じた。


 空間そのものをわかつようなそれは、百花繚乱による強化スキル〝横一文字〟。


 自身の直線状すべてを斬り刻む一太刀は、単発2,020ダメージを叩き出し、


 HP1,500のミノタウロスすべてを瞬く間にワンパンした。

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