028


 早朝、約束していた通り部屋に迎えのシスターがやってきた。


 今日は神父に頼まれたクエストをこなす日にも関わらず、俺のコンディションは最悪。何故かと言うと、結局、一睡いっすいもできなかったからだ。


 あの後もコトハとフィイは、狭いだの詰めてだのと好き放題文句を言ってきて、頼んでもいない密着を進んでしてくる始末。


 フィイはまあ……大変豊かなモノを持っているから冤罪えんざいを掛けられてもまだいい。むしろ「ありがとうございます」である。もう片方の少女は知らない。


「――ねえアルト、今すっごく失礼なことを考えてない? なんだか変な感じがするんだけど」


「え? いや? 気のせいじゃないかなたぶん」


「ふーん……」


 どうしてコトハはこういう時に限ってかんが鋭いのだろう。相手の心を看破かんぱするなんて、サイキッカーでも不可能だぞ。


「それで、目的地まであとどれくらいなの。ていうか本当にこっちであってるのかしら。辺り一帯は森よ、森。違う地域じゃないか不安だわ」


 クエストの手続きを済ませて、早速外へと踏み出してからものの数分。コトハは息をつきながら呟いた。


あせらなくてもティニル洞窟どうくつはこの先だよ。ところでクエストを受けたのは俺たちなのに、どうしてフィイまでここに居るんだ?」


 俺の前にはローブを被った金髪少女が率先して歩いていた。


「どうしてって、われは案内役だよアルトくん。面倒なクエストを受けてもらったんだ、後は勝手にでは失礼だろう。クエストにはわれも同伴する」


「つまり気をつかってくれているわけか。でも大丈夫だぞ、俺はこの辺の地理にも詳しいからな」


 ぴたりと止まって振り返るフィイは、分からないといいたげに首をかしげた。


「アルトくんは駆け出し冒険者なのだろう。ノルナリヤに来たのが初めてなら、この先も来た試しはないとおもうのだ」


「それがね、アルトは何でも知ってるみたいなのよ。地理のことだけじゃなくて、モンスターのこととかレベリングのこととか!」


 俺が答えるよりもコトハが横槍を挟んだ。


「にわかに信じ難いが、もしそれが本当なら大したものだ。もっともアルトくんがただの冒険者ではないことは何となく読めていたが……」


「はは、いくらなんでもそれは」


 俺の疑念に、フィイがふりふりと頭を振る。


「アウラから来たと言うのに、きみたちのLvは70に達している。これから向かうティニル洞窟でさえ適正Lv41-50だというのに、どう考えてもおかしいだろう。いったいどんな魔法を使ったのだ」


「ふふんすごいでしょ。わたしも最初はびっくりしたんだから。それでね、アルトは――」


 俺について意気揚々いきようようとコトハが喋るものだから、口を挟む隙が一切ない。


 しかしあれだなあ、チートだとか最強だとか、こうも大げさに紹介されると、さすがにちょっと恥ずかしい。俺はただ何でもだけなんだが。


「俺のことよりもさ、フィイのことを教えてくれないか。同伴するってことは、一緒に戦うことになるんだろ。それだったら職業とかステータスとか知っておきたい」


「アルトくんと比較すると、われはしがない者にすぎないが――」


 言いながらフィイはプロフィール情報を開示する。


 展開された電子パネルを見るとそこには……。


「われの職業は〝アークマスター〟聖なる力を操り、あまねく邪悪を討ち滅ぼす者。Lvは69、ステータスはこのような感じとなっている。大したものでもないが、よろしく頼むよ」


 マジシャンから転職できる隠しジョブ〝アークマスター〟の文字が、フィイの職業欄に刻まれていた。

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