029


「これは驚いた、まさか超希少種のジョブをお目にかかれるなんて。マジシャンからの派生先だろ、随分と努力したんだな」


「難しいことは分からないが、気づいたらアークマスターになっていたよ。――しかし期待はしないでくれたまえ、本来このジョブは接近戦を得意とするようなのだが、われはあまりそういった行為を好まない。よって取得しているスキルは、どれも後方支援のものばかりだ。すまないね二人とも」


 嘆息たんそくしながら、フィイはインベントリから等身大のロッドを取り出した。


 アークマスターはあれをこん棒みたいに操作して敵を殴り殺すというおぞましい職業なのだが、確かにフィイには不向きだろう。とてもそんなことを好む性格には思えない。


「任せて、火力なら十分だから。だってアルトとわたしがいるんだもの」


「うむ、本当にありがたい限りなのだ。前衛職が二枚もいると安心して支援ができる」


 うんうんと頷く二人だが、俺は知っている。片方はHP100もないとんでもない地雷だ。とても安心できるようなゆえんはない。


「言っておくけど、コトハは前に出るなよ。一発でももらえば戦闘不能になるんだからな」


「なっ――そんなのいやよ! わたしだって力になれるんだから!」


「気持ちはありがたいが、ダウンして動けなくなった時、いったい誰が街まで運んでいくと思っている。そんなの俺は――」


「え? アルトに決まってるでしょ?」


「……」


 よし分かった。こいつは街に置いていこう。


「コトハ、お前は道を引き返してノルナリヤで待ってろ。そうだな、ゆっくり観光でもしてていいぞ。終わったら迎えにいく」


「待って嘘でしょ!? そんなの――ねえアルト、頑張るから! わたし頑張るからぁ!」


 一瞥いちべつもくれずにいると、コトハが腕にしがみついてくるもんだから、ずるずると引きずりながら歩く羽目になった。それを見て苦笑いするフィイ。彼女に愛想あいそうをつかれないか心配だ。


「よいではないかアルトくん。彼女を連れていってあげまたえよ。HPが不安だというのなら、われが〝リンカーネイション〟を付与しよう。一度限りだが戦闘不能状態を無効にすることができる」


「そう――それよそれ! アークマスターさまのバフがあればわたしは何度だって戦えるわ!」


 ひとり意気込むコトハの肩に、フィイが手を置いてたしなめる。


「すまないコトハくん。リンカーネイションは一日一回しか使えないんだ。クールタイムが長くて」


「まあ……いいわ。敵の攻撃なんて躱せばどうってことないもの」


 それは上級者が言う台詞であって、間違いなくコトハが口にできる言葉ではないと思う。


 しかし不安だな。コトハがダウンすることを前提で考えると、残りのパーティーメンバーは俺とフィイの二人だけ。


 そしておそらく彼女も回避が得意ではないだろう。そうなるともし彼女にターゲットがいった場合、ダウンが二人に増えてしまう恐れがある。


 ここは短期決戦で臨むべきか。


「ヤカテストスのHPは5,000もある。手早く倒すには……スキルを習得するしかなさそうだな」


 できれば転職後まで溜めておきたかったスキルポイントだけど、未だに〝挑発〟しか取ってないからたんまりと残っている。多少、浪費ろうひしても大丈夫だろう。

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