026


「……了解した。このクエストは俺たちが引き受けよう」


「おお、それは助かる! 出発は明日で構わない。今日のところは是非ここで休んでいってくれ。客人としてもてなそうじゃないか。宿屋は上質な部屋を手配しておくよ」


「いや別にそこまでは……」


「きみ、急いで空き部屋の確保を!」


 神父が叫ぶと、どこからともなく現れたシスターたちに無理やり案内される。どうにも都合よく利用されている気がしてならない。宿代を節約できたと思えばいいか。


「――それはそうとして、どうしてシングルルームなんだ。俺たちは二人だ、手配するのならツインかシングルふた部屋が相場だと思うんだが」


 いざシスターに案内された先は、おひとりさま専用の一室。ベッドがひとつしかなく、スペースも広いとは言い難い。


「すみません、探してはみたのですが、他に利用できる部屋がなくて……」


 案内役のシスターは困ったようにおどおどしている。


 嘘は言ってないんだろう。彼女を責めても仕方ない。


「――今日も俺と相部屋になるけどお前はいいのか」


 半面、コトハは何の不満もなさそうな笑みを浮かべていた。


「もちろんよ。どうせそのつもりだったし」


「もちろん? それならいいけど……」


 思うところもあるが、こいつの思考回路は俺には理解できない領域にまで到達している。きっと頭の中に小宇宙でも広がっているんだろう。


「それでは朝になりましたら迎えに来ますので。ごゆっくりお楽しみを~」


「っ――はぁ!?」


 ガチャリ。と嫌な音が聞こえて振り返る。


 ドアは勝手に閉められているどころか、外側から鍵を掛けられていた。ノブを回してもまるで開かない。


 どうして閉じ込める必要が? というかいったい何をお楽しみすればいいんだ?


「で、フィイはどうしてここにいんの?」


 そう――俺の問題というのは何も相部屋というだけに収まらない。何故だか知らないが、ここにはもうひとりの美少女まで閉じ込められていた。


 ひとりは生意気な藍色髪あいいろがみ、そしてもうひとりは低身長の金髪。男のいる部屋に二人の美少女を同伴というのは、それはそれは倫理観的にどうなのだろうか?


「アルトくんよ、そう焦る必要はない。君たちは外部の人間だからね。こうしてわれが同伴し、一応は監視をさせてもらうというわけさ」


「それは分かったがどうするんだよ。人数が三に対してベッドは一、ソファーも設置されてない。これじゃあ床に寝る羽目に――」


「それなら一緒に寝ればいいじゃない」


「それなら一緒に寝ようではないか」


 声はほぼ同時に、何食わぬ顔でさらりと言い放った彼女たち。


「……は?」


 いくらなんでもこの小さなベッドで三人詰めるというのは、誰が見ても無理だと分かる、分かるはず、否分かって当然であるというのに、


「――ちゃんとお風呂までついてるじゃない。せっかくだし先に入らせてもらうわ」


「面積は狭いが、これでも上等な部屋だからね。次はわれに使わせてもらおう。アルトくんは最後でもよいか?」


「……」


 何も疑問を抱かない彼女たちを前にすると、むしろ俺が間違っているのではないかとさえ思えてくる。俺は無事に寝ることができるのだろうか?


 分からないが、とても嫌な予感がした。

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