015


「これだけの厚意を受け取って、どうして素知らぬふりができようか。私は、君たちに働いた数々の無礼を謝罪したい。――本当にすまなかった」


 ユノクが頭を下げると、他のパーティーメンバー二人も彼にならった。ちょっと短気なところはあるけど、悪い奴ではないのかもな。


「それとこれは我々には無用の長物ちょうぶつだ。是非そちらで使って欲しい」


 ユノクが二刀にとうを返品してきた。確かにこいつらの武器は直剣、大斧、長杖。といっても、俺には使う算段がないけど――


「そうだこれはお前にやるよ」


 コトハに〝アスククイルの断ち切り鋏〟を渡す。


 彼女はしばしの間、きょとんとした顔のまま硬直していた。


「……え? わたしなんかがもらってもいいの?」


「だって俺も使わないから、腐らせておくのも悪いし好きに使ってくれ。ただし二刀は扱いが難しい、慣れるまで時間が掛かるだろうから、もし合わなかったら言ってくれ。その時はショップにでも売りにいくさ」


「……分かった、ほんとにありがとうね何から何まで。きっと使いこなしてみせるから、待ってて」


 コトハは無垢な笑みを浮かべて応える。ステータス面はやや心配だが、彼女がどう成長していくか楽しみだ。


「最後にどうか頼みがある、私と〝フレンド〟になってくれないだろうか。君の只ならぬ活躍を見越してのことだ、きっと近い将来、大成するに違いない」


 去り際にユノクが申し出をしてきた。


「いいよ拒むような理由も無いし」


「それなら、お、俺も!」


「自分もよろしくお願いしたいです!」


 ユノクに便乗されて残り二人ともフレンドになった。減るもんじゃないし別にいいだろう。


「コトハもよかったらフレンドにならないか? せっかく一緒のパーティーになったんだし」


「いいの?」


「いいって言ってるだろ、もう少しは自分に自信を持てよ。それにさっきまでの威勢はどこにいった? 何だかコトハらしくないぞ」


「そ……そうね! うん、ありがと」


 にこやかに微笑む彼女には、女の子らしいしおらしさを感じる。なにか心境の変化でもあったのだろうか。


 ともかく彼女ともフレンド登録を済ませて一件落着。俺たちは湿地帯からアウラへと帰還した。


 街に着いた頃には時計の針は深夜を指しており、空いている宿屋を探すのも一苦労だったのだが、


「――それで、コトハさんはどうして私めと同室なのでしょうか?」


 問題は空の暗がりではなく、お姫さまが相部屋あいべやを取ったことだ。


「別にいいじゃない……アルトは同じパーティー仲間なのよ、何か問題でもあるの」


「問題とかいう話ではなくですね、普通、男女は分けて部屋をお取りになられません?」


「分かんないわよふつうなんて。……嫌だって言うんならもうひとつ取ってくるけど」


「そこまでは言ってないが……分かった、ここにしよう俺はこの部屋が大好きだ」


「うん、決まりね! それじゃあわたしお風呂入ってくるから――」


 るんるんと弾む足取りでコトハは浴室へと向かっていく。


 相部屋にもかかわらず何故かベッドがひとつしかないことと、この後の展望を考える事すら面倒になった俺は、何も考えずにまぶたを降ろした。


 ……あ、明日はあの大男との約束があるんだった……もう……面倒くさ……。

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