014


「でも大丈夫? あいつには1ダメージしか入らないんでしょ。こいつらみたいになるくらいなら、手助けなんてしないほうがいいわよ」


 暗い表情のままコトハが言う。彼らの救援にあまり乗り気じゃなさそうだ。


「もしかして心配してくれているのか?」


「べつにそんなわけじゃないけど……」


「大丈夫だって。すぐに終わらせてくる」


「……うん、分かった。でも気を付けてよね」


 彼女の送り出しを受けて、アスククイルへと向かっていく。モンスターとのレベル差は20オーバー。数発もらったら戦闘不能になることは間違いない。


 だけど不安はまったくなかった。モンスターからの攻撃なんて当たらなければどうとでもなるのだから。


「気を付けろくるぞ!!」


「アルト避けて!」


 サソリが固有スキルを放つ寸前、脅威きょういを見て取ったユノクとコトハが張り叫ぶ。


「……そのモーションだとだな」


 麻痺ブレスを撃たれるよりも早く、反時計回りに走ってサソリの左脚に張り付く。前方範囲に広い攻撃だから、これはあえて接近してしのぐんだ。ここにいれば当たらない。


 そしてその次に来る攻撃は、はさみを使った周囲へのぎ払い。安置あんちりを目的に仕組まれた行動パターンだ。


「なに、躱した……いや違う、これはもしや未来予知!?」


 俺の分かり切っていたような行動を見て、ユノクが驚嘆きょうたんする。


 そう疑いたくなる気持ちは分かるけど、残念外れだ。俺は全モンスターの全行動パターンを把握しているだけでそんな超能力は授かっていない。


「――で、次は振り降ろしと」


 頭上から振りおろされた鋏には、半身を逸らして対応した。


 俺のすぐ横を等身大はあろうかという爪が掠め過ぎる。威力のほどは、大地に深々と突き刺さった鋏を見れば分かる。あたったら即ダウン、致命の一撃だ。


「あとは――これで終わりだ」


 鋏を土台にしてサソリの上体へと登り詰める。――奴の弱点である核は眼前。


 いざロングソードで刺し貫くと、湿地帯のフィールドボスさまは奇声を上げて消滅した。与えたダメージは9,999。実にあっけない決着だ。


『い、一撃、だと!?』


 ユノクパーティー面々は信じられないといった顔で俺を見ている。ギミックを知っていればそう大した話じゃないんだけど、なまじ知らないだけにチートめいたダメージに見えてしまったかもしれない。


「お、Lvあがった」


 フィールドボスを倒したことで、かなり美味しい経験値とルクスを獲得した。Lvはこれで丁度70。ルクスは狩りで手にした分も含めて20万ほどか。当面、宿代には困らないな。


「ほら、レアアイテムがドロップしたからお前たちはこれでも売りさばくといい。アスククイルの首飾り、篭手こて二刀にとう、全部で200万ルクス程度にはなる。どうだ、クエスト報酬よりも遥かにうまいだろ?」


「な、なんと――これは!」


 ドロップ品を惜しみなく渡すと、ユノクが言葉を失った。まさか本当に俺が不正を働くと思っていたのだろうか。


「これでもう文句はないな。それじゃあまた」


「ま、待ってくれ!」


 立ち去ろうとした瞬間、彼に腕を掴まれる。まだ俺に用があるみたいだ……。

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