013


「――コニクスと俺で前衛を、スーリは後方支援を頼む。フィールドボスなど願ってもいない好機だ、あいつを倒して報酬を獲得するぞ!」


『おおおぉぉ!!』


 ユノクが指示を出し、後の二人がそれに続く。彼らのパーティー編成はユノクとコニクスのファイター2、スーリと呼ばれた長杖を持ったマジシャン1となっている。


 前衛2後衛1という編成は悪くない。前衛の枚数が多い分、マジシャンは後ろから安心してダメージを出すことができるだろう。


「行け――ファイヤボルト!」


 スーリの詠唱と共に、杖先から炎の弾丸が空を駆け、


『ハアアアッ!!』


 ユノクは直剣を、コニクスは大斧をアスククイルの胴体目がけて振り下ろす。パーティーの強みを生かした一斉攻撃だ。しかし、


『な、何――ッ!?』


 直後、ガキンと堅い金属音が鳴り響く。そしてサソリに表示された与えダメージはどれも1。冒険者三人による渾身こんしんの同時攻撃はわずか3ダメージを与えただけという、無残な結果に終わった。


「さっそく……驚いてるみたいだな」


 アスククイルのやたらギラギラした装甲は伊達だてではない。あいつは、たとえステータスがカンストした冒険者が相手だろうと全てを1ダメージに抑えてしまう圧倒的な防御力を持っているんだ。


「こ、こんなはずは……ええいもう一度だ! コニクス、スーリ、俺に合わせろ!」


 苦虫を食い潰したような顔でユノクが叫び、怒涛どとうの攻撃は始まった。


 ファイターとマジシャンによるスキルの数々、ドーンやらバーンやら派手な音が鳴り渡っているが、与えたダメージはすべて1。


 1ダメージなんて冒険者が一番みたくない数字だ。ユノクたちが宇宙猫みたいな顔をしてしまうのも無理はない。


「アルトアルト、あいつらはいったい何をしてるの? 1ダメージなんて冒険者の風上にも置けないわね。もしかしてここは笑うべきなのかしら」


 意地悪な笑みを浮かべているコトハもまた、ボスの脅威きょういに気づいていないようだった。


「いいやあれであってるんだよ。アスククイルっていうフィールドボスはその防御力がギミックだからな。まともに戦っても1ダメージしか入れられない」


「ふうん、そうなのね――って1ダメージ? そんなのどうやっても倒せないじゃない。あいつのHPは1,500って表示されてるのよ。もしかして1,500回も殴り続けなきゃいけないの?」


「まともに取り合えばな。あいつの弱点に気が付けばすぐに攻略できるんだけど」


 サソリの長い尻尾の先端――青々ときらめく核の存在には、俺以外誰も注意していない。実はあれがサソリの弱点なんだけど、あいつら気が付くかなあ。


「ぐ、ぐはぁっ……」


 サソリのはさみぎ払われて、コニクスがダウンした。HPは残り2、あれ以上の戦闘は無理だろう。


「コニクス――クソ、この化け物め!」


 ユノクが憤怒してサソリにキンキンと絶え間ない斬撃を浴びせていく。


 1ダメージ、1ダメージ、そしてさらに1ダメージ。うーん、はかない。


「や、やめろ……うあぁ!!」


 アスククイルの固有スキル〝ヘキシング〟。


 麻痺性のブレスを浴びたマジシャンはたちまち床に突っ伏した。戦闘続行は無理っぽい。


 これでパーティーの内三分の二が戦闘不能、そしてサソリのHPはまだ1300ほど残っている。絶望的な局面だ。そろそろ手助けをする頃合いだろう。


「なあ、もしよかったら手を貸そうか」


 声を掛けられたユノクはキッと目尻を吊り上がる。


「ふざけたことを、蛮族ばんぞくの手など借りるものか――」


 直後、ガッと鈍い音が鳴りユノクの体が宙を舞う。アスククイルのはさみによる薙ぎ払いだ。


 ドサッ。騎士さまが空から降ってきたv。HPは残り12。うーん、厳しい。


「た、頼む……どうか我々の手助けをしてくれ……」


 改心はや! もう少し葛藤かっとうしろよ!


「即落ち二コマ……いや……まあいい、一応俺にも非はあるんだし手伝うよ」


「す、すまない……奴の討伐をどうか頼む……」


 かくして選手は交代。壊滅かいめつしたユノクパーティーに代わって、俺がアスククイルの前に立つ。


 せわしなくはさみを閉じたり開けたりしてるフィールドボスさまは、まだまだ暴れたりない様子だった。

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