「そうだけど、何か用ですか？」

「何か用ですかだと――ふざけやがって、どうやら痛い目を見なきゃ分からないらしいな！」

　全身フルプレートメイルに大斧を携えた男、コニクスが大声を上げる。

　なんだなんだ、こいつらはいったい俺たちの何に不満があるんだ？

「我々はクエストを達成するため、隣街のノルナリヤからはるばる足を運んだ。だがいざ来てみればモンスターは一匹残らず狩り尽くされている。これでは我々のクエストが達成できない、要するに報酬が受け取れないと言うわけだ。――これはどう考えても、我々に対する侮辱（ぶじょく）行為だと思えるのだが」

　直剣を佩（は）いた涼しげな顔つきの男、ユノクが無茶苦茶な文句を重ねてきた。

「はあ？　ここは誰の敷地でもないだろ。誰がどうモンスターを狩ろうが自由だ。ていうかモンスターが討伐されたのなら、むしろ好都合じゃないか。さっさと帰ってクエスト報酬を受け取りにいけよ」

「それはできない」

　ユノクの反論は即答だった。

「誰がどれだけのモンスターを討伐したかは、プロフィールの記録を見れば分かる。我々が狩るはずだったアラクネやヨードルの討伐数が変わっていないのに、どうして報酬を受け取れると言うんだ。虚偽の報告はすぐにバレる。つまるところ、君たちのおかげで我々の稼ぎが泡となったわけだ」

　さも正論風に言っているこいつは何を言っているんだろう。俺たちがお前らのクエスト事情なんて知ってる訳ないのに。

　だが……なるほど、大半の冒険者の暮らしはクエスト報酬で成り立っているわけだから、元のゲームに現実的な設定を加えるとこうなるのか。

　ゲーム内ではなかったイベントだ。まさか高速レベリングが誰かの生活を脅かすことになるとは。

「いいやそれでも〝勝手に狩場でレベリングしてはいけない〟なんて利用規約はないはずだ」

「詭弁（きべん）を……そうかそうか、つまり君はそういうやつなんだな。謝罪するつもりはないと見える」

　ユノクは眉をしかめてより一層険（けわ）しい顔つきになる。

　もしかしてこれはPVP（ピーブイピー）イベントなのだろうか。さっきは突然すぎて戸惑ったけど、もし挑んでくるのなら否やはない。

　スキルの威力、効果、距離（レンジ）、CT（クールタイム）……俺は全てのスキルを網羅（もうら）しているからな。

「ねえねえアルト。あいつらなんか偉そうだしパパっとやっちゃわない？」

　コトハが小さく耳打ちする。

　それにはまったく同意見だが、クエスト報酬を奪った挙句に蹂躙（じゅうりん）するというのは、流石に鬼畜に過ぎるのではないだろうか。

　閻魔（えんま）さまだって仰天するような仕打ちだぞ。地獄にいったら入獄（にゅうごく）拒否されるかもしれない。

「何をぶつぶつと……もはや論ずるまでもない、この私が手ずから誅（ちゅう）を下してやる。さあ覚悟を改めて剣を執（と）れ、その蛮行（ばんこう）、白日（はくじつ）の元に晒してくれるわ！」

　うわあめちゃくちゃノリノリじゃんこの騎士さん。どうしようこれ。

「ほらほらあいつもやる気みたいだし、さっさとやっちゃおうよ」

　そしてお前は俺をそそのかすな。だいたい俺は全アカウントを〝最大レベル能力値到達（カンスト）〟したガチ勢だぞ、決闘慣れしてない相手をボコったって仕方がないだろ。一体全体どうしたもんだか……。

『――ッ！？』

　思い迷っていた最中（さなか）、忽然（こつぜん）と轟くモンスターの咆哮が俺たちの会話を断絶した。

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